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輸液の構成栄養素

水・電解質

①    水
成人の1日の水分摂取量は、約2,500mLとなっています。摂取水分の内訳は、飲料水、食物中に含まれる水分、代謝水となっていて、一方で排泄される水分は尿、不感蒸泄(呼気中の水分、皮膚や角膜からの蒸発)、糞便内の水分などである。汗は感蒸泄とし、不感蒸泄とは区別して考えます。
 摂取と排泄の量(水分出納)の調節によって、身体の水分量は一定に維持されています。また、成人では、1日の水分排泄量は体重の約1/30ですが、乳児では約1/10が入れ替わるため、水分出納に不均衡をきたしやすくなっています。

<摂取水分量(mL)>
飲料水 1500mL、食物中の水分 800mL、代謝水 200mL ⇒計 2,500mL

<排泄水分量(mL)>
尿 1,500mL、糞便 200mL、不感蒸泄 700mL、汗 100mL⇒計 2,500mL

 

 

②    電解質
陽イオンとして、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、陰イオンとしてCl-、PO4-、HCO3-が必要です。Na+は血漿浸透圧を調整しています。食事が摂れない場合の食塩量は1日量として、約4~6g(Na+は60~100mEq、1~2 mEq/kg)に設定されています。

 

K+は約90%が細胞内液に存在し、外液にはわずか2%しか存在していません。カリウム量は1日100mEqを超えない量に設定されていて、1~2 mEq/kgとなっています。

 

 

糖質

糖質はカロリーとして生体のエネルギー源あるいはタンパク質を同化するエネルギー源になります。脳と赤血球はグルコースを唯一のエネルギー源として利用しており、ヒトが活動するのに十分な量を摂取する必要があります。
糖質は6~10g/kg/日を必要とし、主にグルコースが用いられますが、フルクトースキシリトールを組み合わせた製剤などもあります。

 

アミノ酸

アミノ酸製剤には肝不全用や腎不全用などがあり、病態により用いられる製剤が異なります。アミノ酸は1~2g/kg/日を必要とします。

 

肝不全時のアミノ酸製剤

肝硬変における肝性脳症に注意しながら、肝不全時にはアミノ酸バランスの是正、血中アンモニア濃度の減少、膠質浸透圧の改善を行わなくてはなりません。

 

肝不全時のアミノ酸のバランスを是正するためには、芳香族アミノ酸(AAA)分岐鎖アミノ酸(BCAA)のバランスを考える必要があります。AAA(チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン等)は主に肝臓で代謝される性質があり、肝障害によって肝臓の代謝が悪くなるとAAAが増加します
一方、BCAA(ロイシン、イソロイシン、バリン)は主に筋肉や脳で代謝される性質があり、AAAとBCAAのバランスの指標をFischer比(=BCAA/AAA)といいます。健常人のFischer比は、3~4とほぼ一定となっていまが、肝硬変等でアミノ酸の代謝異常が起こると、血液中にAAAが増加するため、Fischer比は低下します。

 

肝不全でFischer比が低いと、AAAが血液脳関門を通過する際にBCAAが競合的に拮抗するため、AAAが脳内へ移行しやすくなります。脳内で増加したAAAは、オクトパミンや5-ヒドロキシルインドール酢酸などの偽性神経伝達物質を生成して、気分変調、睡眠パターン障害、羽ばたき振戦を初期症状とする肝性脳症を引き起こすと考えられています。

 

このように、肝性脳症はFischer比が低いと起こりやすくなるため、改善するためにはFischer比の高いアミノ酸製剤を投与しなければなりません

 

 

腎不全時のアミノ酸製剤

アミノ酸は十分なエネルギー存在下では、タンパク質に合成されますが、エネルギーが不十分な場合にはエネルギー源としてアミノ酸が利用(タンパク異化)されてしまいます。そのため、非タンパク質熱量(NPC)総窒素(N)のバランスを確認する必要があります。NPC/N比とは、アミノ酸を効率よくタンパク合成に向かわせるための適正な比のことを指します。

 

  • NPC:非タンパク質熱量(kcal)…糖質、脂質の熱量
  • N:総窒素(g)…アミノ酸重量(g)/6.25

 

腎不全患者では、窒素の排泄が悪くBUN(尿素窒素)が高いため、窒素の投与量が制限されています。さらにタンパク異化の亢進を抑制するため、健常人よりやや高めのエネルギー投与が必要となります。つまり、腎不全患者はタンパク質(アミノ酸)を低めに、カロリーを多めに設定する必要性があります。
そのため、腎不全時に投与される高カロリー輸液には、高いNPC/N比が必要とされていて、平常時のNPC/N比は150~200ですが、腎不全時では300程度に設定されています。

 

 

脂肪

脂肪乳剤は必須脂肪酸(リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸)カロリー補給を目的として使用されます。大豆油を卵黄レシチンで乳化した0.2μm前後の粒子径の注射製剤であり、等張化剤にグリセリンが用いられています。エネルギー源としての投与量は20%程度(0.5~1g/kg/日)、必須脂肪酸は3~5%の投与を行います。

 

細菌や真菌などの不溶性微粒子の除去、配合変化で生じた沈殿物や気泡などの除去を行うためにインラインフィルターを使用することがあります。しかし、脂肪乳剤の粒子はフィルターの孔径よりも大きいために、脂肪乳剤にインラインフィルターを使用することはできません

 

 

ビタミン

水溶性ビタミン9種類と脂溶性ビタミン4種類の合計13種類のビタミンを含有する総合ビタミン製剤をTPNに混合して投与する方法が一般的に行われます。3室に分かれたTPN用トリプルバッグ製剤も市販されていて、上室にはアミノ酸、下室には糖質・電解質・水溶性ビタミン、第3室には水溶性ビタミン・脂溶性ビタミンが配合され、隔壁で仕切られている。使用時に下室を押すことで隔壁が開通して、アミノ酸、糖質、電解質、ビタミンが同時に混合される仕組みになっています。

 

高カロリー輸液療法中は各種ビタミン欠乏症に注意してビタミンを基本的に毎日投与しなければなりません。ビタミンB1欠乏症の代謝性アシドーシスは、ピルビン酸からアセチルCoAに代謝される段階で、補酵素として働くビタミンB1が欠乏することにより体内に乳酸が蓄積して起こります。そのため、TPNの場合は1日3mgのビタミンB1投与が必須となります。ビタミンB1欠乏性の代謝性アシドーシスを発現した場合には、直ちにビタミンB1を大量に急速静脈内投与(100~400mg)を行います。

 

乳酸アシドーシス

生体内の解糖系で生成された乳酸が異常に蓄積し、血液pHを低下させることにより起こる。特にTPN施行時のビタミンB1非投与で、ピルビン酸からアセチルCoAへの代謝が阻害され、乳酸が蓄積することにより重篤なアシドーシスを呈する。

 

 

微量元素

通常食事が摂取できる状況であれば、極端に食事内容が偏らない限り、微量元素の不足を生じることはありませんが、TPN施行中は、生体に必要な微量元素の摂取は輸液からのみとなるため、微量元素の補給が必要となります。長期間に渡ってTPNを行う場合は特に注意が必要です。

 

TPN使用中に重要な微量元素は亜鉛、銅、鉄、マンガン、ヨウ素、セレンであり、一般的には市販されている微量元素製剤の1日1キット投与を行います。微量元素が不足すると不足する元素によって欠乏症を起こします。

 

【主要な微量元素の生理作用と欠乏症】

鉄はヘモグロビンの構成(ヘム鉄)に作用するため、欠乏すると鉄欠乏性貧血(小球性・低色素性)を引き起こす。

 

セルロプラスミンとして造血因子鉄吸収作用、結合織、骨代謝に作用するため、欠乏すると貧血、白血球(好中球)減少、脾腫、骨異常、皮膚炎、皮膚・毛髪の異常を引き起こす。

 

亜鉛

糖・タンパク質(アミノ酸)・脂質代謝、DNA・RNA代謝、免疫能、創傷の治癒促進などに作用するため、欠乏すると発育障害、味覚異常、嗅覚低下、皮膚炎、性的発育遅延、免疫能低下などを引き起こす。

 

セレン

組織における酸化防止に作用するため、欠乏すると発育障害、筋肉痛、溶血などを引き起こす。

 

クロム

耐糖因子として糖代謝に関係、コレステロールの代謝調節などに作用するため、欠乏すると耐糖能低下、脂質代謝異常、発育障害、末梢神経障害などを引き起こす。

 


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