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便秘治療薬を選択する前に

便秘治療薬を選択するにあたり、詳しい情報の聴取が重要となります。排便の頻度、便性状そして症状の3点について確認していきます。

 

排便の頻度

排便回数は「週に何回か?」ではなく「2日に1回程度か(週3~5回)、3日に1回程度か(週に2~3回)」といった具体的な数値を挙げて聞いた方が答えやすいようです。

 

便性状

ブリストルスケール(BS)を利用します。BS4の「バナナ状の便」を理想と考え、コロコロした便(BS1)や便の表面がボコボコした硬い便(BS2)になっていないかを確認します。

 

症状

便秘の症状を確認します。例えば、排便時の怒責、残便感、排便時の肛門・会陰部の不快感、腹痛や張りの有無がないかを確認します。
一方で原疾患や薬剤の影響がないかを考慮する場合もあります。
便秘を来しやすい疾患は、糖尿病や甲状腺機能低下症、慢性腎不全、パーキンソン病、うつ病などがあり、
便秘を来しやすい薬剤は、抗コリン作用薬、向精神薬、オピオイドなどがあげられます。
薬剤性便秘が疑われても、疾病管理が優先され原因薬剤が変更できないことも多いため、便秘治療薬を使った排便コントロールのサポートや原疾患の治療薬の服薬アドヒアランスの低下を防ぐような働きかけが求められることもあります。

便秘経口治療薬における基本的な考え方

便秘経口治療薬の基本的な考え方として、便を軟らかくする、腸を動かす、便を排泄するこれら3つの考え方を元に治療薬を選択します。
臨床上で用いられる便秘薬は以下の3つに大別されます。

①便を柔らかくする➡非刺激性下剤
例)酸化マグネシウム(重カマ、マグミット、マグラックス他)などの浸透圧性下剤、ルビプロストン(アミティーザ)の上皮機能変容薬

 

②腸を刺激して動かす➡大腸刺激性下剤
例)センノシド(プルゼニド他)、ピコスルファートナトリウム水和物(ラキソベロン他)などの刺激性下剤

 

③直腸を刺激して排便を促す➡直腸刺激性下剤
例)直腸にたまった便を出す坐薬や浣腸

 

慢性便秘のうち、器質性の疾患を伴わない機能性便秘は、「排便回数減少型」と「排便困難型」に大別される。
排便回数減少型の場合は、加齢や女性ホルモンの影響、症候性、薬剤、精神的なストレスなどによって腸管の蠕動運動が弱くなるのが原因であることが多く、経口便秘治療薬が有効とされています。

 

一方、排便困難型の場合は、腹筋の低下や骨盤底筋協調運動の障害などが原因で起こることが多く、経口便秘治療薬では改善しにくいとされています。
この場合、直腸を刺激する坐剤や浣腸が用いられることが多いです。便の元となる食物繊維や食事の摂取量の不足が原因の便秘は、下剤を服用するだけでは解消できず、食物繊維の摂取量の適正化も必要となります。

 

便秘の薬物治療

便秘の明らかな原因疾患がない場合は、まず生活習慣や食生活の改善を行います。それでも便秘が改善しない場合に下剤を使用することになります。
一般的に薬物治療の中心は非刺激性下剤であり、それだけでコントロールできない場合に刺激性下剤をレスキュー薬として頓用するのが基本的な考え方となります。
刺激性下剤は耐性、依存性が強いため第一選択として用いるべきではありません。刺激性下剤の服用頻度が高く、ベースとなる非刺激性下剤の服用量が常用上限量に達している場合は、新規便秘薬への切り替えもしくは追加が検討されます。

 

また、便秘の原因となりうる薬剤を服用している場合は、可能であれば中止もしくは変更します。

 

一方、便秘に対して整腸剤や大建中湯などで便性状や症状を調整することもあります。
整腸剤といえば下痢の患者に処方されるイメージが強いがですが、便通が安定して便秘時にも有用です。腹部膨満を訴える患者には大建中湯を追加併用すると改善することがあります。残便感があると訴える場合も腹部膨満であることが多く、同薬によって解消することも多くあります。

 

目指すべきゴールとして、「非刺激性下剤のみで、排便回数が2日に1回から1日2回程度、BSFS3~5の便がすんなり出る状態」を目指します。
処方された患者には、排便回数、便性状、症状に加えて、刺激性下剤の使用頻度も意識してもらう必要があります。

非刺激性下剤

  • 酸化マグネシウム(マグミット他)
  • マクロゴール4000・塩化ナトリウム・炭酸水素ナトリウム・塩化カリウム(モビコール)
  • ルビプロストン(アミティーザ)
  • リナクロチド(リンゼス)
  • エロビキシバット(グーフィス)
  • ラクツロース(ラグノスNF)

 

酸化マグネシウム (商品名:マグミット他)

非刺激性下剤の中心的存在であり、長年使用されている薬剤です。錠剤が市販されるようになり服用も容易になっています。
酸化マグネシウムが使用しやすい点として、まず安価であることです。近年様々な便秘薬が開発されていますが、それらに比較すると本剤は安いです。
そして、用量調節がしやすい点です。処方側も頻繁に投与量を調節したり、患者側でも自己管理によって、調節することが行いやすく、非常に使い勝手の良い薬剤であると考えられます。使用経験が豊富な分、本剤を処方しやすいと考える医師は多いようです。新規薬剤にはそれぞれ特徴があり有用ですが、本剤だけで十分コントロールできるケースは多くあります。

 

薬理作用

酸化マグネシウムは、胃酸により塩化マグネシウムとなった後、腸管で難吸収性の重炭酸塩または炭酸塩となり、腸管内に留まることで作用を示します。

<胃内> MgO+2HCl→MgCl2+H2O

<腸管内>MgCl2+2HCO3-Mg(HCO3)2+2Cl-
        Mg(HCO3)2MgCO3+H2O+CO2

Mg(HCO3)2はMg重炭酸塩、MgCO3はMg炭酸塩であり、腸管内では難吸収性です。これらは腸管内の浸透圧を上昇させ、腸管組織から内腔へ水分が移行します。
水分が増加することで便が軟化します。また、便容積が大きくなることで腸管壁を刺激し、排便が促されます。

 

酸化マグネシウムの注意点
高マグネシウム血症

本剤は通常の投与量では問題となる電解質異常を生じることは少ないのですが、長期投与または高齢者へ投与する場合においては、酸化マグネシウムは高マグネシウム血症への注意が必要です。高Mg血症の初期症状は悪心・嘔吐、口渇、血圧低下、徐脈、筋力低下、傾眠などがあります。これらの症状が出た場合は注意です。

 

これまでに死亡例も報告されており、腎機能正常例や通常用量以下(1日2g以下)の投与でも重篤な転帰をたどるケースもあります。
腎機能低下例や高齢者、長期服用者では3カ月に1回程度、血清マグネシウム値を測定する、1日2gを超えて服用させない、eGFRが30 mL/分/1.73㎡未満は避ける
などのポイントを押さえておくことが必要となります。
禁忌ではありませんが、腎機能が低下した高齢患者に高用量の酸化マグネシウムが処方された例では、処方医に確認する必要があります。

 

酸化マグネシウムの吸収促進

本剤と活性型ビタミンD3製剤との併用では、消化管吸収や腎尿細管からのマグネシウムの再吸収が促進することが知られているので注意が必要です。骨粗鬆症ではビタミンD3製剤を使用することが多く、患者も高齢者にも多いため高マグネシウム血症を起こしやすい状態になります。サプリメントにもビタミンD3が含まれていることもあるため注意しましょう。

 

酸化マグネシウムの効果減弱

H2ブロッカーやPPIといった胃酸分泌抑制薬との併用により、酸化マグネシウムの緩下作用が減弱する可能性があります。
酸化マグネシウムは胃酸と反応して、塩化マグネシウムを生じ、その後、膵液に含まれる炭酸水素ナトリウムと反応して、重炭酸塩、炭酸塩による浸透圧で腸管内腔に水分を引き寄せ、便を軟化、膨張させます。つまり、胃液である胃酸がないと十分効果を発揮できません。胃切除後や胃酸分泌抑制薬との併用で酸化マグネシウムの効果が減弱することがあります。

 

酸化マグネシウムによる吸収阻害

本剤とテトラサイクリン系やニューキノロン系の抗菌薬、ビスホスホネート製剤などの併用では、マグネシウムが難溶性のキレートを形成し主薬の吸収を妨げます。
キレート形成による吸収抑制が起こりうる場合は、主薬の服用後、2時間程度ずらして酸化マグネシウムを服用するようにしましょう。

 

マクロゴール4000・塩化ナトリウム・炭酸水素ナトリウム・塩化カリウム(モビコール)

モビコール配合内用剤は、主成分のポリエチレングリコール(PEG)に電解質を配合した慢性便秘症の治療薬です。
PEG製剤で唯一、国内で慢性便秘症に適応を持つ薬剤で、適用年齢は2歳以上で成人も服用することができます。
効き方が穏やかで、下痢を起こしにくい薬剤です。小児に対して使いやすく、便性状が良くなる印象があります。

 

薬理作用

PEGは、エチレングリコールが重合した構造をもつ高分子化合物で、水分を保持する性質があります。
浸透圧効果により腸管内の水分量が増加し、便中の水分量が増加して、便が軟化、便容積が増大することで、大腸の蠕動運動が活発化し排便が促される仕組みです。
酸化マグネシウムと同様の薬理作用と考えられます。

 

モビコールの注意点

「小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン」によると、小児の慢性便秘症の治療では、便塞栓があれば便塊除去を行った上で、生活・排便習慣の見直しや食事療法、薬物療法などの維持治療を行います。その際の薬物療法においては、浸透圧性下剤から開始することが原則とされています。

 

浸透圧性下剤はいずれも、効果発現に数日かかり、効果を上げるためには服用時に十分な水分を摂取する必要があります。

 

年齢による用量の違い

モビコールは年齢により用量が異なります。
2~6歳は初回用量として1回1包、7歳以上の小児および成人は、1回2包をそれぞれ1日1回経口投与する。
1日の最大投与量も年齢により異なり、2~11歳は4包まで、12歳以上の小児および成人は6包までとなっています。

 

モビコールの服用方法

服用の際には、1包当たりコップ1/3程度(60mL)の水に溶かして服用します。
ジュースなどに溶かしても問題はないとされています。独特の塩見を嫌がる患者もいますが、お茶やみそ汁に入れるなどの工夫で飲みやすくなることがあります。

 

モビコールの副作用

欧米で広く用いられていて安全性が確立されており、また、ポリエチレングリコールはほとんど吸収されないと考えられています。
小児使用に対しては安心感がありますが、副作用として、下痢や腹痛が認められています。そのため、添付文書には、「症状に応じて増量、休薬または中止を考慮し、本剤を漫然と継続投与しないよう、定期的に投与継続の必要性を検討すること」と記載されています。

 

ルビプロストン(アミティーザカプセル)

ルビプロストンはクロライドチャネルアクチベーターに分類される下剤です。エビデンスレベルが高く、特に高齢者では有用とされています。
投与初期に悪心が起こりやすく、若年者や女性で発現しやすいとされています。

 

薬理作用

ルビプロストンは、腸管粘膜上皮細胞にあるクロライドチャネルを活性化し、腸管内への水分の分泌を促進させます。
また、腸液分泌促進作用もあり、2つの作用により便の水分含有量を増加して、腸管内の輸送を高めて排便を促します。

 

アミティーザカプセルの注意点

動物実験で胎児喪失が報告されており妊婦には禁忌であることから若い女性には処方しにくい薬剤です。
そのため本剤は、妊婦には禁忌となっています。さらに腫瘍やヘルニア等による腸閉塞患者にも禁忌となっています。
一方、中等度または重度の肝機能障害、重度の腎機能障害患者では慎重投与となっています。

 

服用方法

空腹時に服用すると吐き気が出やすくなるため、食後(30分以内)服用するようにします。
アミティーザの服用開始時には、効果が現れ過ぎて吐き気や下痢をきたすことがありますが、多くは数日で改善します。
悪心の軽減には、食後すぐに服用する、1日1回服用では食事量の多い夕食後に服用するのが良いとされています。
低用量で服用を開始して漸増することで悪心の発現を減らすことができます。一般的には48μg/日から始めて悪心が表れたり便が緩くなれば減量しますが、
比較的軽度の便秘であれば、1回12μg1日1回から開始して増量していき、副作用を回避しつつ至適用量を決めることもあります。

 

アミティーザカプセルの副作用

下痢や悪心など

 

リナクロチド(リンゼス)

リンゼスは、便秘型過敏性腸症候群(便秘型IBS)の治療薬として承認されていました。その後、慢性便秘症の追加承認を受けています。
IBSは起因が明らかな器質的な疾患を伴わず、腹痛・腹部不快感と便通異常を主体として、それらの消化器症状が長時間持続もしくは再発・改善を繰り返す疾患です。
本剤は腹痛の改善効果があるため、腹痛を伴う便秘に処方されることが多いです。
しかし、急激に下痢を生じることがあり、効果の用量反応性が不確実なことがあり、用量調節が難しいようです。

 

薬理作用

リナクロチドは体内にほとんど吸収されず、腸管の管腔表面に発現するグアニル酸シクラーゼC受容体を活性化させることで、管腔内への腸液分泌を亢進します。
腸管内への水分分泌を促進することにより排便を促します。ルビプロストンと作用点は異なるものの、腸管での水分分泌促進という点では同様の作用を持っています。
また、本剤は求心性神経の痛覚過敏を抑制することで、腹痛・腹部不快感を改善します。

 

リンゼス錠の注意点
服用方法

通常、1日1回0.5mgを食前投与します。なお、症状によって0.25mgに減量します。
食後に服用すると下痢の頻度が高くなるため、食前投与となっています。
また、本剤は吸湿するので服用直前にアルミ包装から取り出します。

 

副作用

下痢、腹痛など。重大な副作用として、重度の下痢が報告されています。

 

エロビキシバット水和物(グーフィス)

グーフィスは、胆汁酸の再吸収に関わるトランスポーター(IBAT)を直接阻害して、胆汁酸の再吸収を抑制します。
胆汁酸の再吸収を抑制することで大腸内に流入する胆汁酸の量を増加させ、大腸内への水分分泌を促進することで排便を促します。

 

本剤は蠕動運動を促進させる効果もあり、蠕動運動が弱まっている高齢者にも向いていると考えられます。
さらに大腸内の胆汁酸が便意に関連することから、便意回復効果についても報告されている。

 

また、本剤はP-糖蛋白質の阻害作用も有しています。

 

薬理作用

エロビキシバットは回腸末端部の上皮細胞に発現している胆汁酸トランスポーターを阻害し、胆汁酸の再吸収を抑制することで、大腸管腔内に流入する胆汁酸の量を増加させます。胆汁酸は大腸管腔内に水分を分泌させるため、消化管運動が促進されます。

 

グーフィス錠の注意点
用法

通常、成人には10mgを1日1回食前に経口投与します。症状により増減可能ですが、最高用量は1日15mgとなっています。
食事の刺激により胆汁酸が十二指腸に放出される前のタイミングでの服用が望ましいため、食前投与となっています。

 

副作用

腹痛、下痢など

 

併用注意

本剤のIBAT阻害作用により、胆汁酸製剤の再吸収が阻害されるおそれがあるため、胆汁酸製剤(ウルソデオキシコール酸など)の効果が減弱するおそれがあります。

 

アルミニウム含有制酸剤は、消化管内で胆汁酸を吸着するため、本剤の作用が減弱するおそれがあります。コレスチラミン、コレスチミド(コレバイン)も胆汁酸を吸着するため、同様に注意が必要です。

 

一方、本剤のP-糖蛋白質阻害作用により、ジゴキシン(ジゴシン他)、ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(プラザキサ)は血中濃度が上昇し、作用が増強するおそれがあります。

 

機序は不明ですが、ミダゾラム(ドルミカム、ミダフレッサ)を併用するとミダゾラムの血中濃度が低下し、減弱するおそれがあるので注意が必要です。

 

ラクツロース(ラグノスNF経口ゼリー)

ラクツロースは海外では便秘症治療薬として広く使われていましたが、国内では小児に対する慢性便秘症の効能のみで成人に対する適応を有していませんでした。
ラグノスゼリーは、成人に対する慢性便秘症に適応をもつ薬剤になります。
ラグノスゼリーは原薬のラクツロースから結晶ラクツロースに変更したことにより、不純物であるガラクトースや乳糖を少なくした製剤になります。
また、ラクツロース起因の甘み抑制と服薬性向上、さらにスティック包装による携帯利便性向上を目的として開発された経口ゼリーになります。

 

薬理作用

ラクツロースは、小腸で分解・吸収されることなく大腸に達し、浸透圧作用により腸内への水の移動を促進します。
また、ラクツロースは、腸内細菌によって分解され、乳酸などの有機酸を産生し、浸透圧を高めるとともに、腸管の蠕動運動を促進します。
さらに、産生された有機酸によりpHが低下し、ビフィズス菌、乳酸菌の増加及び腸内環境の改善が認められ、アンモニア産生菌の発育を抑制し、アンモニアの吸収を抑制することにより、血中アンモニア濃度の低下作用を示します。

 

ラグノスゼリーの注意点

ラクツロースを主成分とする製品として、モニラックシロップがありますが、便秘に関する適応は小児における便秘の改善のみとなっています。
ラグノスゼリーは成人の慢性便秘症にも適応をもち、ジェネリック医薬品に分類されています。
したがて、便秘に対して使用する場合、小児の慢性便秘症には、モニラックシロップを使用し、成人の慢性便秘症にはラグノスゼリーを使用することになります。

 

用法

慢性便秘症➡通常、成人には本剤24g(本剤2包)を1日2回経口投与する。症状により適宜増減するが、1日最高用量は72g(本剤6包)までとする。

 

高アンモニア血症に伴う症候の改善(精神神経障害、手指振戦、脳波異常)➡通常、成人には本剤12~24g(本剤1~2包)を1日3回(1日量として本剤3~6包)経口投与する。年齢、症状により適宜増減する。

 

産婦人科術後の排ガス・排便の改善➡通常、成人には本剤12~36g(本剤1~3包)を1日2回(1日量として本剤3~6包)経口投与する。年齢、症状により適宜増減する。

 

副作用

下痢、水様便、腹部膨満、腹痛、鼓腸、腹鳴、悪心、嘔吐、食欲不振など

刺激性下剤

  • センノシド(プルゼニド、センノサイド)【アントラキノン系誘導体】
  • センナ(アローゼン)【アントラキノン系誘導体】
  • ピコスルファートナトリウム水和物(ラキソベロン)【ジフェニルメタン系誘導体】

刺激性下剤は、腸管を刺激することにより蠕動運動を促進したり、便を軟化させます。小腸刺激性下剤と大腸刺激性下剤に分けられますが、前者はヒマシ油のみで、ほとんど使用されていません。
一方、後者は作用発現が良好であり、即効性が高いため使用頻度は高いです。ただし、耐性を生じるために長期にわたる使用については注意する必要があります。

 

センノシド、センナ(商品名:プルゼニド、センノサイド、アローゼンなど)

センナはアントラキノン配糖体含有生薬の一つであり、センノシドはセンナに含まれるセンノシドA、Bを抽出したものになります。
この他に、アントラキノン配糖体含有生薬として、ダイオウ(センノシドA~Fなどが含まれる)やアロエ(アントラキノン配糖体のバルバロインなどが含まれる)があります。

 

薬理作用

大腸腸管内において、センノシドが腸内細菌により加水分解され、レインアンスロンとなります。その後、レインアンスロンは粘膜およびアウエルバッハ神経叢を刺激して大腸運動を促進することで効果を示します。

 

使用上の注意点

大腸刺激性下剤は大腸粘膜を刺激して、蠕動運動を促進するため、大腸の運動が低下して起こる弛緩性便秘などに有効です。しかし、けいれん性便秘などの蠕動運動が亢進した病態への使用は不向きです。

 

また、大腸刺激性下剤は、長期間の連用で耐性を生じやすいため常用には適さず、頓用が望ましいとされています。
アントラキノン系誘導体の大腸刺激性下剤を長期間常用することにより大腸粘膜に色素が沈着し、淡褐色~黒褐色に変色することがあります。
これを大腸黒皮症(大腸メラノーシス)といい、原因薬物を中止すると約1年で色素は消失するとされています。

 

効果発現は速やかとされていますが、効果発現までには7~12時間かかります。そのため就寝前に服用することが多いです。
ただし、用量や用法については個人差が大きいので、各々で設定が必要となります。

 

低カリウム血症には、下痢を起こすと電解質を消失して状態が悪化することがあるため、使用禁忌となっています。

 

ピコスルファートナトリウム水和物(商品名:ラキソベロン他)

ピコスルファートナトリウムはジフェニルメタン系誘導体です。大腸内で腸内細菌によってジフェノール体となり、大腸を刺激して効果を発現し、水分吸収阻害作用をあわせもちます。

 

薬理作用

大腸腸管内において、ピコスルファートナトリウムが腸内細菌由来のアリルスルファターゼにより加水分解され、ジフェニール体となり、大腸を刺激して排便を促進します。

 

使用上の注意点

ピコスルファートナトリウムは作用が比較的穏やかなため、けいれん性便秘にも使用することができます。
耐性が生じにくいともされています。

 

また、剤形に液剤があるため、用量調節が容易なため、大腸刺激性下剤の中では使用しやすい薬剤と考えられます。

直腸刺激性下剤

  • 炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム(新レシカルボン)
  • ピサコジル(テレミンソフト)
  • グリセリン(グリセリン浣腸)

直腸刺激性下剤は、直腸を刺激し、排便を促します。直腸に留まっている硬い便に対して有効な薬剤です。

 

炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム(商品名:新レシカルボン坐剤)

薬理作用

肛門から直腸に挿入されると、直腸内の水分と反応することで炭酸ガスを発生させます。発生したガスは腸管の内圧を高め、排便反射を誘発し、蠕動運動を促進させます。
耐性は生じにくいとされています。

 

ピサコジル(商品名:テレミンソフト坐剤)

ピサコジルはピコスルファートナトリウムと同様にジフェニルメタン系誘導体に分類されます。

 

薬理作用

ピサコジルは肛門から挿入されると、直接結腸や直腸の腸管壁を刺激し、腸管の動きを促進します。
耐性は生じにくく、効果発現は速やかです。

 

グリセリン(商品名:グリセリン浣腸)

薬理作用

グリセリン浣腸は、直腸内に30 mL~120mLを注入して使用します。
直腸内の水分を吸収することによって、直腸刺激作用と便の軟化潤滑作用を示します。また、腸管の内圧を高め、排便反射を誘発することで排便を促します。
耐性は生じるとされています。

 

使用上の注意点

グリセリン浣腸使用時は、直腸前壁の損傷や穿孔がないか注意する必要があります。
グリセリンが直腸外に漏出すると、腹膜炎を起こす危険性があります。また、グリセリンの吸収によって溶血、腎不全などの有害事象が起きることがあります。

 

グリセリン浣腸は急性腹症、腹膜内炎症、腸管出血・穿孔、全身衰弱、腹部術後などの患者には禁忌となっています。

便秘に用いられる主なエキス製剤

漢方薬には体を「温める(熱)」と「冷やす(寒)」ものがありますが、身体がどちらの状態に偏り過ぎても便秘を起こします。
そこで漢方薬を使って身体を元に戻すという考え方で薬剤を選択していきます。

 

そのためには、患者の症状や生活背景から正しい原因を抽出して、症状にあった漢方薬を選択します。

 

例)食欲があり、胃腸が熱を持つことで生じた便秘であると推測される場合➡大黄甘草湯
例)冷たい食べ物や冷房など腹部の冷えが原因であると思われる場合または腹部膨満感を伴う便秘の場合➡大建中湯
例)腎機能が低下し、水分を蓄える能力が落ちることで便を硬くしていることがある場合➡潤腸湯
例)若い女性で背景に月経や月経前症候群(PMS)がある可能性がある場合➡調胃承気湯
例)コロコロ便で、便に水分がない場合➡麻子仁丸

 

「慢性便秘症診療ガイドライン2017」より抜粋

エキス製剤 下剤としてのタイプ 使用目標

特徴

大黄甘草湯 大腸刺激性 便秘に対する基本処方

●大黄の含有量が多い。大黄の主成分はセンノシドである。
●甘草の含有割合が高く、甘味があり飲みやすい。

桃核承気湯 大腸刺激性+塩類下剤 いらいらを伴う症状を有する患者向け

●大黄に加えて、芒硝(硫酸ナトリウム)を含有し、酸化マグネシウムと同様に塩類下剤(高浸透圧による蠕動亢進)としての作用が期待される。
●女性で比較的体力があり、のぼせて便秘しがちなタイプが漢方的な使用目標とされる。

防風通聖散 大腸刺激性+塩類下剤 いらいらを伴う症状を有する患者向け

●大黄に加えて、芒硝(硫酸ナトリウム)を含有し、酸化マグネシウムと同様に塩類下剤(高浸透圧による蠕動亢進)としての作用が期待される。
●褐色脂肪組織の活性化を介した肥満に対する効果が報告されていることから、肥満を伴う便秘症に使用されるケースが多い。

調胃承気湯 大腸刺激性+塩類下剤 いらいらを伴う症状を有する患者向け ●大黄に加えて、芒硝(硫酸ナトリウム)を含有し、酸化マ グネシウムと同様に塩類下剤(高浸透圧による蠕動亢進)と しての作用が期待される。
潤腸湯 クロライドチャネル刺激 高齢者向け ●クロライドチャネルCFTR 活性化作用により腸管水分量促進作用、腸管輸送促進作用を示すとともに、大黄による大腸刺激性の排便の誘発が期待される。
麻子仁丸 便軟化作用 高齢者向け

●甘草を含有しないことから偽アルドステロン症のリスクが少ない。
●麻子仁に含まれる脂肪油・精油によって便軟化作用が期待され、大黄による大腸刺激性の排便の誘発が期待される。
●腸管の過緊張に痙攣に伴い糞便の通過が遅延しコロコロした乾燥便を呈した場合に効果的と考えられる。

桂枝加芍薬大黄湯 整腸作用 平滑筋の緊張に伴う腹痛を訴える患者向け

●芍薬は平滑筋の緊張をやわらげる作用がある。
●便秘型過敏性腸症候群が疑われる場合、痛みの軽減に加えて排便が期待される。

桂枝加芍薬湯 整腸作用 平滑筋の緊張に伴う腹痛を訴える患者向け

●芍薬は平滑筋の緊張をやわらげる作用がある。
●大黄を含有せずマイルドな整腸作用が期待される。
●痛みを伴う交代型 IBSに効果が期待される。

大建中湯 消化管運動促進、血流促進 腹部膨満感を訴える患者向け

●大黄を含有せずマイルドな整腸作用が期待される。
●腹部膨満を伴う便秘に効果が期待される。
●便秘患者の直腸感覚閾値を下げることで便意を感じやすくする効果が期待される。

大柴胡湯 大腸刺激性+消化管運動促進 上腹部の張りを訴える患者向け ●体力が充実して、腹壁からみぞおちあたりにかけて苦しく、便秘の傾向があるものの次の諸症状;胃炎、高血圧や肥満に伴う肩こり、頭痛、神経症、肥満に効果あり。

 


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