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便秘 constipation

便秘の定義

慢性便秘症診療ガイドライン2017によると、便秘は本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態と定義されています。具体的には「週3回未満の排便」が1つの基準と考えられます。しかし、この基準に当てはまらなくてもうまく排便できれば良く、排便頻度は3日に1回でも、便性状が良好で排便時の症状も不快感もないのであれば、便秘ではないと判断されることもあります。

 

便秘の原因

便秘は、大腸の形態的変化を伴う器質性便秘と形態的変化を伴わない機能性便秘があり、さらに機能性便秘は症状から排便回数減少型と排便困難型に分類されています。

 

便秘の原因は大きく3つの原因があります。①便の輸送、②便の形状、③便の排出についての3つの点が挙げられますので、以下に述べていきます。

便秘の原因1➡便の輸送が滞る

加齢や副交感神経の活動を抑制する抗コリン薬などの影響によって腸管の蠕動運動が低下します。すると、糞便がスムーズに輸送されずに便の輸送が滞ることになりますので便秘が起こります。また、食事量や食物繊維摂取量が少ないと便の容積が小さくなり、腸壁への刺激が減少し、蠕動運動が弱くなることから便秘の原因となることもあります。一方、ストレスなどで副交感神経の緊張が過剰になると、蠕動運動は亢進しているものの痙攣性となり、腸内容物がスムーズに輸送されなくなることからも便秘になることもあります。

 

便秘の原因2➡便が硬くなる

食事や水分量の不足によって便が硬くなると、移動や排出が困難になります。便の輸送に時間がかかり、結腸内での滞留時間が長くなると、水分が過剰に吸収されて硬便化してしまうためです。便が硬くなると便秘になってしまいます。

 

便秘の原因3➡排出が困難になる

加齢などにより腹圧、直腸内圧を十分に上げることができずにいると、便の排出力が低下します。その結果便が外へ排出されにくい状態となり、便秘の原因となります。また、排便時にいきみと骨盤底筋群の弛緩をうまく協調させられない骨盤底筋協調運動障害などによって、排便困難や不完全排便による残便感を生じるとされています。便意を我慢するような生活習慣が続くと、直腸に便が入っていても便意を感じなくなります。

 

以上のような便秘の原因が考えられます。とりわけ高齢者は、加齢とともに腸管の活動性や腹圧が低下し、食事量も減少するので便秘を起こしやすい状態ですので注意を要すると考えられます。

 

ブリストルスケール

十分量かつ快適に排出する上では、便の形状が重要です。形状把握にはブリストルスケール(BS)という指標が使用されています。BSは、便の形状と硬さを7段階に分類したスケールで、便秘や下痢の指標の1つです。患者や家族、介護者に見せて確認するのにも便利です。また、BSを使って医師や看護師と情報を共有しやすくなるという利点もあります。
 
参照:排泄ケアナビ

 

一般にBS4が健常な糞便とされています。水分が少なく硬い便だと、スムーズに腸管内を移動ができずに、排便時にいきむ力が必要となります。その結果、腹圧が弱い高齢者では排便困難につながります。水分過多の便は、一塊にならず便が残りやすいです。BS4にあるように、ソーセージ状になるような水分量の便が最も快適に排出できる状態になります。ただし、腹圧が弱い高齢者や寝たきりでオムツを使用していて十分にいきめない患者は、少し緩めの方が排便しやすいことように調整することもあります。

 

 

薬剤性便秘

便秘を訴える患者の中には、服用中の薬剤が原因で便秘になる方もいます。慢性便秘症診療ガイドライン2017には慢性便秘症を起こしやすい薬の一覧が記載されており、抗コリン作用を有する薬、オピオイドなど腸管に影響する薬が多くあります。

 

 

イミダフェナシン(ウリトス、ステーブラ)、コハク酸ソリフェナシン(ベシケア)などの過活動膀胱治療薬は、抗コリン作用が強く、服用中に便秘を訴える高齢者が多いです。この場合、便秘の症状によってはミラベクロン(ベタニス)などの代替薬への変更が必要となるケースもあります。
また、鼻炎に対する抗ヒスタミン薬も抗コリン作用を介して便秘を起こすことがあります。対症療法で使用している場合は、その使用状況にも注意する必要があります。

 

一方、オピオイドは、中枢のμオピオイド受容体を介して鎮痛作用を発揮する一方で、消化管に存在する末梢のμオピオイド受容体を介して消化管運動や消化管神経活動を抑制し便秘を起こします。オピオイドが原因で起こる便秘をオピオイド誘発性便秘症(OIC)といいます。
OICには、オピオイドを中止して症状を軽減したいところですが、QOLの観点からするとがん性疼痛に対する中止は難しいです。しかし、OICに対して2017年6月にナルデメジントシル酸塩(スインブロイク)が発売され、対処できるようになりました。作用発現については初回服用から自発排便までの時間が平均5時間程度とされています。ナルデメジンは、消化管の末梢μオピオイド受容体に結合してオピオイドと拮抗することにより、便秘を改善することができます。ただし、消化管閉塞の既往や疑いのある患者には禁忌となっています。

 

参考資料:日経ドラッグインフォーメーション 2023年2月号(PE002-006)、日経ドラッグインフォーメーション 2017年12月号(PE002-006)

 


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