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注射剤の調剤

 これまで注射剤に関して、医師は緊急性が高く投与変更が多いなどの理由から処方せんを発行することなく患者に投与を行ってきました。薬剤師は注射剤に関して注射剤調剤の概念がなく、注射剤は指示書をもとに病棟や外来に払い出しを行ってきました。

 

現在では、薬剤管理指導料の施設基準において「入院中の患者の投薬・注射の管理は、原則として、注射剤についてもその都度処方せんにより行うこと」とされており、注射剤に関しては注射処方せんに基づいて調剤が行われるようになっています。

 

一般的な注射剤調剤の流れは、院外処方せんを受け付けたときの流れと同様に注射処方せんの不備や疑義を確認し、計数調剤また計量調剤を行い、鑑査を行い払い出しを行います。注射処方せんの場合は、通常の処方せんの記載事項以外に投与経路、投与時間、投与速度などの注射剤特有の項目について確認を行わなくてはなりません。

 

 

注射処方せんの記載事項

 注射処方せんに法的な規定はありませんが、処方せんの形式および記載事項は医師法施行規則第21条及び歯科医師法施行規則第20条に定める記載事項に準拠する必要があります。

 

医師法施行規則
第21条 医師は、患者に交付する処方せんに、患者の氏名、年齢、薬名、分量、用法、容量、発行の年月日、使用期間及び病院もしくは診療所の名称及び所在地又は医師の住所を記載し、記名押印又は署名しなければならない。
(歯科医師法施行規則第20条にも同様の条文あり)

 

注射処方せんと内服薬処方せんの事項のちがいを以下に示します。

【分量(投与量)】
内服薬処方せんは、1日分の投与量を記載しますが、注射剤処方せんは1回分の投与量で記載します。

 

【用法】
注射剤処方せんは、投与方法、投与経路、投与回数、投与日時、投与速度を記載します。

 

【用量】
内服薬処方せんは、原則制限はありませんが、注射剤処方せんは1回投与量で記載します。

 

薬品名については、略語を使用せず、規格(含量)まで明記し、記載漏れがある場合には必ず疑義照会を行います。処方オーダリングシステムの場合は入力ミスが起きやすいため注意が必要です。

 

 

注射剤の適用法

 注射剤の投与経路は添付文書に記載された用法を遵守しなければなりません。投与経路の記載がなかったり、添付文書通りの投与経路ではない場合は疑義照会を行います。

 

皮内注射(i.c. :intracutaneous injection)

表皮と真皮の間に薬液(約0.1mL)を注入する投与経路で、主にツベルクリン反応やアレルゲンテスト(抗生物質)などの診断に用いられます。投与部位を揉んだり、衣服で擦ったりすると正しい診断ができなくなってしまうので注意する。

 

皮下注射(s.c. :subcutaneous injection)

皮膚と筋肉層の間の皮下組織に薬液(約0.1~2.0mL)を注入する投与経路で、他の投与経路より作用発現がやや遅く、インスリン製剤局所麻酔薬など作用を長く持続させたい注射に用いられます。

 

筋肉内注射(i.m. :intramuscular injection)

薬液(4mL以下)を筋肉内に注入する投与経路で、薬液性状が油性液、懸濁液のため皮下及び静脈内投与が適さないものでも投与可能です。

 

静脈内注射(i.v. :intravenous injection)

静脈内に直接薬液を投与する経路なので、吸収及び全身への薬物移行が最も速い投与経路になります。速やかに血中濃度を上昇させたいときなどに用いられます。

 

 

投与速度に注意を要する注射剤

 血管内投与の注射剤は、作用の持続あるいは副作用の軽減の目的で投与速度が添付文書に記載されていることがある。血管内に直接薬剤を投与する場合、内服薬と比較して薬効発現が早く、副作用が起こる可能性も高いため、投与速度は添付文書中の用法を遵守する必要があります。以下に投与速度について制限の記載がある注射剤について示します。

 

ドパミン塩酸塩

1分間当たり1~5μg/kgを点滴静脈内注射します。患者の病態に応じて1分間当たり20μg/kgまで増量することができますが、投与量は患者の血圧、脈拍数及び尿量により適宜増減しなければなりません。1μg/kg/min=1γということもあります。

 

塩化カリウム

最も注意を要する医薬品だと認識しています。急速静注により不整脈や心停止を起こすことがあるため、急速静注は不可です。
投与速度はカリウムとして20 mEq/hr(8 mL/min)を超えないこととされており、カリウムは心臓への影響が大きいので、濃度は40mEq/L以下、投与量は100mEq/日以下が原則となっています。心電図や血清カリウム濃度(正常値 3.5~5.0mEq/L)をモニターする必要があります。ワンショットは決して行ってはいけません

 

ドブタミン塩酸塩

1分間当たり1~5μg/kgを点滴静脈内注射します。投与量は患者の病態に応じて、適宜増減し、必要がある場合は1分間当たり20μg/kgまで増量することができます。

 

エリスロマイシンラクトビオン酸塩

急速静注は不可となっています。心室頻拍を起こすことがあるので、1回2時間以上かけて点滴静注しなければなりません。

 

シスプラチン

500~1000mLの生食注またはブドウ糖-食塩液に混和し、2時間以上かけて点滴静注します。
シスプラチン注射液は、塩素(Cl)イオン濃度が低い輸液を用いると活性が低下するので、生理食塩液またはブドウ糖-食塩液に混和しなければなりません。このため、シスプラチン製剤には安定剤として塩化ナトリウムが0.9%になるように添加されています。

 

バンコマイシン塩酸塩注射液

バンコマイシン塩酸塩点滴静注用は難溶解性のため、1バイアル0.5gにつき注射用水10mLで溶解後に、5%ブドウ糖液または生理食塩液100mLに混合し投与します。
急速なワンショット、または短時間での点滴静注を行うと、ヒスタミンが遊離されてレッドネック症候群血圧低下等の副作用が発現することがあるので、60分以上かけて点滴静注しなければなりません。

 

レッドネック症候群

ヒスタミン遊離に伴うアレルギー反応で、フラッシングや頻脈が生じ、顔、首、上体幹部、背中、腕などに紅斑型薬疹が現れるたり、血圧低下血管性浮腫など様々な症状が認められます。レッドマン症候群といわれることもあります。
そのため、バンコマイシン塩酸塩0.5gにつき100mL以上の生理食塩液、または5%ブドウ糖注射液で溶解し、60分以上かけて点滴静注しなければなりません。
バンコマイシンと同じグリコペプチド系抗菌薬のテイコプラニンではヒスタミンの遊離作用は少ないことが報告されていますが、テイコプラニンは急速静注は避け、30分以上かけて点滴静注することとされています。

 


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