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細胞毒性のある注射剤の調整時における留意点

 抗悪性腫瘍薬は悪性の細胞を殺す作用があり、病巣部位以外で曝露されると細胞毒性を示すため、取扱いには十分注意する必要があります。日本病院薬剤師会は抗悪性腫瘍薬のガイドラインを作成し、抗悪性腫瘍薬の調整を薬剤師の業務と位置づけています。

 

抗悪性腫瘍薬注射剤の無菌調整にあたっては、注射剤の無菌調製に準拠しますが、調製者の抗悪性腫瘍薬による被ばくを回避することが重要となります。そのため、妊婦や授乳婦は調製者から除外しなければなりません。また、調整後の廃棄物の処理や破損による薬剤の外部への飛散などの危険性についても注意しなければなりません。

 

 

(1)  調製環境
無菌的でかつ調製者が曝露しないこととから勘案すると、周囲から独立した部屋で排気管理を行った陰圧クリーンルーム、安全キャビネット内で調製することが望ましいとされており、NASA基準クラス10000以下がひとつの目安となります。また、クリーンルーム等の調整室内に流し台、作業前室、パスボックス、エアーシャワー室が設置されていることが望ましいとされています。

 

安全キャビネット

 抗がん剤の調製時には無菌的な環境を保ちつつ、調製者の曝露防止と調製環境の汚染防止のためにクラスⅡ以上の安全キャビネットを設置します。作業空間は陰圧となる呼気・排気構造になっており、空気清浄度はクラス100とされています。

 

キャビネット内の空気はHEPAフィルターでろ過・滅菌され、その空気の流れによって前面の開口部にエアーバリアをつくるようになっています。キャビネット内の空気はキャビネット内下部と奥の吸気口から吸引され、室内空気はエアーバリアとともに調整口の吸気口から吸引される仕組みになっています。
吸引された空気はHEPAフィルター通過後に清浄空気としてキャビネット内循環または屋外へ排気されるようになっています。

 

 

(2)  調製時の装具
抗がん剤の調製に装着するものは被爆・汚染を防止するため、原則としてディスポーサブル製品を使用します。

 

服装

【手袋】
手指を抗がん剤との接触から保護するために装着する。材質はニトリル製(またはラテックス製)でパウダーフリーの製品を2重で装着することが推奨されています。手袋破損時や多量汚染時には直ちに交換し、また作業が長時間に及ぶ場合には外側の手袋を定期的に交換する必要があります。

 

【マスク】
抗がん剤のエアゾルや微粉末の吸入、液剤飛散時の顔面への接触を防止するために装着します。N-95規格を満たすもののほか、サージカルマスクの上にガウンのマスクを重ねて使用する方法が推奨されています。

 

【保護メガネ】
薬剤の飛散から目を保護するために目を完全に覆うことが可能なゴーグルやシールドを装着します。ディスポーザブル製品が望ましいが、専用のものでもよいとされています。メガネを使用している場合でも保護メガネは必要となります。

 

【ヘアキャップ】
頭髪を薬剤の飛散より保護するほか、毛髪落下防止のために装着する。ディスポーザブルタイプのものを使用することが多い。

 

【ガウン】
調製者の身体や衣服への飛沫汚染を防止するために着用します。薬剤不透過処理の施されたディスポーザブル製品で背開きマスク付、長袖で袖口があり、手袋をはめた時に上に被せられるものが望ましく、多量汚染時には直ちに交換します。

 

器具・用具

【注射シリンジ】
注射針が容易にはずれないようにルアーロック式のシリンジのディスポーザブル製品が望ましいとされています。

 

【フィルター】
アンプル製品を調製する場合はアンプルカット時のガラス片の混入を防止するため、フィルターが付いた(フィルター針)やマイレックスフィルターを用います。

 

【作業用シート(滅菌ドレープ)】
安全キャビネット内の調製場所に敷き、薬液の飛沫やこぼれた薬液を補足するために使用します。シート表面は吸水性素材で、裏面は薬液不透過素材を使用します。多量汚染時には直ちに交換を行います。

 

【携帯用ディスポーザブル注入ポンプ】
薬液を適切な投与速度で持続注入するために用いる。投与速度や薬液量により複数規格が用意されている。フルオロウラシルの持続注入を行うFOLFOXレジメンなどで使用される。

 

 

(3)  調製作業
抗悪性腫瘍剤の飛散防止、調製者や安全キャビネット内の汚染を防ぐために以下の点に注意しなければなりません。

  • バイアルから薬液を注射筒に吸引するとき、バイアル内を陽圧とせずに、最初に薬液をある程度吸引し、同容量の空気を戻すようにします。この操作を繰り返して、必要量の吸引を行います。
  • 凍結乾燥品を溶解する場合は、バイアル内を陰圧にして行う。
  • 薬液がアンプル頭部に残っている場合は薬液をすべてアンプル胴部に戻し、しばらく静置してからアンプルカットする。 
  • アンプルカット時は不織布で覆い、薬液が飛散しないようにカットする。
  • 残液は、アンプルではシリンジに入れたまま、バイアルではバイアル瓶に戻して廃棄する。調製した抗悪性腫瘍剤バックから液漏れ等がないかどうか確認する。

 

(4)  鑑査
ラベル表記、最終製剤に問題がないか確認を行う。薬剤の空容器及び残量の確認も行う。

 

 

外来化学療法における抗がん剤レジメンの意義とその適正使用

 患者のQOLを考慮し、家族との日常生活や仕事をしながら化学療法を行うことのできる外来化学療法が広く行われるようになっている。

 

外来化学療法は、多くの施設でレジメンに従った治療が実施されています。レジメンとはがん薬物療法における治療計画で、抗がん剤の用法・用量、投与スケジュール、投与時間、投与経路、溶解度(輸液)の種類ほか、副作用防止のための支持療法(前投薬の有無、制吐薬、補液など)も記載されています。レジメンに基づいて治療を行うことで、医療過誤を未然に防ぐことができ、均一な治療を提供することが可能となります。

 

外来化学療法における患者は、入院患者とは異なり、日々の体調変化や副作用の発現について確認することができません。そのため、外来患者においては来院時の副作用発現、食欲、排泄、睡眠等についての情報収集を行うことが重要になります。

 


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