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トレシーバ注(一般名:インスリンデグルデク)

名称の由来

"トレ"はラテン語の3を表し、3つの特徴を表します。

 

①HbA1cを効果的に改善、②夜間低血糖の発現のリスクの低下、③1日1回、毎日一定のタイミングであれば、いつでも投与することが可能
以上の3つの特徴を指します。

 

"シーバ"は、soluble insulin basal analogueの頭文字で、持効型溶解インスリンアナログ製剤という意味になります。

 

 

どんな薬か?

トレシーバはヒトインスリンの遺伝子組み換えにより、作用の持続化を図った持効型溶解インスリン製剤です。有効成分はインスリンデグルデクといい、大きな特徴は作用持続時間が非常に長く26時間以上と考えられています。

 

海外のデータでは42時間以上ともされており、既存の持効型溶解インスリンにはインスリングラルギン(ランタス)、インスリンデテミル(レベミル)がありますが、これらの作用時間をはるかに凌ぐ作用時間とされており、超持効型ともいわれることもあります。

 

そのため、投与回数は1日1回とされており、毎日一定のタイミングであればいつでも投与することが可能です。

 

フレックスタッチ(プレフィルド製剤)ペンフィル(カートリッジ製剤)の2種類のタイプが発売されています。プレフィルドとは、インスリン製剤と注入器が一体化されたインスリン製剤で、使用後はそのまま捨てることができるディスポーザブル型となっています。

 

カートリッジを交換する手間が省け、簡単な操作で使用できるのが特徴です。フレックスタッチは従来のプレフィルド製剤よりも、目盛が合わせやすく、使いやすい印象があります。

 

一方、ペンフィルは、専用のペン型注入器と組み合わせて使用するインスリン製剤となっています。
                      

 

 

基礎・追加インスリン療法(Basal-Bolus療法)

インスリンは血糖を下げることができる唯一のホルモンです。インスリンの分泌ができない状態または分泌が不十分な状態だったり、インスリンの効きにくい状態になると高血糖状態が持続し、目や腎臓や神経症状などの合併症を起こすことがあります。

 

この状態を是正する方法、つまり糖尿病の薬物治療として経口血糖降下薬インスリン製剤を用いて治療を行う必要があります。トレシーバはインスリン製剤になります。

 

これまでの研究からインスリンの分泌には2つの分泌パターンがあることが明らかになってきました。1つ目は、1日26時間持続して分泌している基礎インスリン(Basalインスリン)、2つ目は食後の高血糖状態になると分泌される追加インスリン(Bolusインスリン)の2つがあります。

 

基礎インスリンは昼夜を問わず、食事を摂らない状態であっても分泌されていて、夜間睡眠中であっても分泌されています。作用はそれほど強くありませんが、長時間作用しているインスリンです。

 

一方、追加インスリンは食後に補助的に分泌されます。大抵の場合は1日に3回食事を摂るので、追加分泌も3度行われていることになります。食後の血糖値上昇を抑えなければならないので、作用が強めで短時間作用するインスリンと考えることができます。

 

健常人では一日に分泌される基礎インスリンと追加インスリンの割合は50:50と考えられています。

 

インスリン治療では、これらのインスリン分泌パターンを再現することが理想であると考えられています。持続時間の長いBasalインスリンを投与し、追補的に食後の高血糖に対してBolusインスリンを投与していく方法が用いられます。この薬物治療をBasal-Bolus療法といったりします。

 

空腹時や食後の血糖コントロールができない場合、1日1~2回の基礎インスリンと1日3回食前に追加インスリンを投与するのが一般的な治療方法になります。

 

本剤は持効型インスリン製剤で、作用持続時間は26時間を超えると考えられていますので、Basal-Bolus療法のBasalインスリンの治療部分を担う薬剤となります。Bolusインスリンとしては効果がないため注意が必要です。

 

 

持効性の仕組み

これまでの基礎インスリンの補充のために、いくつかのインスリン製剤が開発されていますが、効き方にバラつきがあったり、24時間効果が持続しないために1日2回投与する必要がある場合があった。トレシーバは24時間以上の安定した作用を示す薬剤となっています。以下に持効性を示すメカニズムを示します。

 

1つのインスリンを単量体(モノマー)といいます。インスリンは6つのモノマーが結合した6量体(ヘキサマー)で安定する状態になると考えられて、トレシーバはヘキサマーが2つ結合したダイヘキサマーとして製剤中に存在しています。

 

トレシーバは皮下組織内に投与されると、ダイヘキサマーがいくつも集まって結合し、可溶性のマルチヘキサマー(6量体の複合体)が形成します。マルチヘキサマーの状態では血管壁を通過できない状態となっていて、そのマルチヘキサマーの両端から順次モノマーが解離してゆっくりと持続的に血中へ移行していきます。

 

このようにして、トレシーバはより長く安定した作用を示すようになります。

 

 

使用上の注意点

トレシーバはBasal-Bolus療法のBasalインスリンの部分を担う薬剤ですので、食後の急激な高血糖に対応することはできません。薬剤変更する場合は注意が必要で、うっかりBolusインスリンとして使用してしまうと血糖コントロールがうまくいかなくなってしまいます。

 

そのため、他のインスリン製剤の名称と役割を確認しておく必要があります。

 

<Bolusに対応するインスリン製剤>
ノボラピッド注、ヒューマログ注、アピドラ注、ノボリンR注、ヒューマリンR注

 

<Basalに対応するインスリン製剤>
トレシーバ注、レベミル注、ランタス注、ヒューマログN注、ノボリンN注、ヒューマリンN注

 

<BolusとBasalの両方に対応するインスリン製剤>
ヒューマログミックス注、ノボラピッドミックス注、ノボリン30R注、イノレット注など

 

トレシーバの投与間隔は一定にしないと低血糖症状が出る可能性があります。投与間隔が狭ければ狭いほど低血糖症状が出やすいと報告されています。

 

投与を忘れたとき場合は、基本的には思い出した時点ですぐに使用することができますが、次の投与まで8時間以上をあけることとされ、その後は次の時刻に投与することとされています。自分の中で確実に投与できる時間帯を決めておくことが重要です。

 

投与忘れを防止するために携帯電話等でのアラーム機能を活用してみるのも一つの方法です。

 


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