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注射剤の配合変化

 注射剤の多くは難溶性成分を水溶性にして製剤化されていますが、現場では注射剤同士を混合したり、輸液と混合して使用することが多くあります。散剤の組み合わせでは湿潤したり、変色したりする化学変化を起こすことがありましたが、注射剤においても配合変化を起こすことがあり、散剤などに比べると配合変化を起こす頻度も多くあります。

 

元々注射剤は単独使用を想定して作られているため、多くの薬剤と混合する現場では無数の組み合わせが存在し、配合変化によっては薬物治療に支障をきたすものもあります。注射剤の配合変化の原因として、@物理的要因のものやA化学的要因のものなどがありますが、これらの配合変化には外観変化が認められるものと外観変化は認められないが含量、力価の低下するものがあります。

 

配合変化を防止するためには、注射剤の混合順序をpHの近いものから混合し、pHの離れたもの、またはpHの移動によって外観変化がみられるものは、あらかじめ輸液中に混合するか、最後に輸液中へ混合すると外観変化が起きにくくなります。

 

 

物理的配合変化

(1) 溶解性
 注射剤には溶剤に@水性注射剤、A油性注射剤そしてBプロピレングリコールなどの有機溶剤で可溶化された水溶性注射剤があります。基本的に水と油は混じり合わないため、水性注射剤と油性注射剤を混合することはできません。水性注射剤と油性注射剤の例を以下に示します。

 

水溶性注射剤

油性注射剤

フェニトインナトリウム
フルニトラゼパム
ジアゼパム

エストリオールプロピオン酸エステル
テストステロンエナント酸エステル
テストステロンプロピオン酸エステル
エストラジオール吉草酸エステル
ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル

 

有機溶剤で可溶化された水性注射剤は、補液などで希釈しすぎてしまうと溶解能が低下してしまい、沈殿を生じることがあるので希釈率には気をつける必要があります。希釈後沈殿を生じていなくても、時間が経過すると沈殿を生じたり、外観が変化することがあるため、希釈調製後はすぐに使用しなければなりません。

 

スタッキング現象

凍結乾燥製剤である注射用ドキソルビシン塩酸塩(アドリアシンR)は注射用水には容易に溶解するが、生理食塩液に溶解すると赤色綿状の沈殿を生じることがあります。この現象をスタッキング現象と言います。
生理食塩液に含まれるナトリウムイオンと塩化物イオンにより、ドキソルビシン分子が疎水化を起こしたことが原因で起こります。疎水化すると、ドキソルビシン分子同士が積み重なり、生理食塩液に対する溶解速度が遅くなってしまうために沈殿を生じます。

 

ドキソルビシン塩酸塩を生理食塩液を少量ずつ加えながら溶解するとスタッキング現象を起こしやすくなるため、生理食塩液に溶解する場合は1mL以上の生理食塩液で速やかに溶解する、もしくは注射用水で溶解するなどの工夫が必要となります。

 

 

(2) 薬剤の素材への吸着
ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、インスリン、シクロスポリン、ベンゾジアゼピン誘導体は、ポリ塩化ビニル(PVC)製の輸液バッグ・セットへの吸着し、主薬の含量低下を起こすことがあります。そのため、上記の薬剤を使用するときはPVC製のものを使用しないように注意する必要があります。

 

また、PVC製の輸液バッグには可塑剤としてフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)を使用しています。可塑剤とは本来硬いPVCを柔らかくする目的で使用される添加剤です。この可塑剤が接触する溶媒(ポリオキシエチレンヒマシ油やポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリソルベート80など)によって溶出してしまうことが知られています。そのためDEHPを析出させるような溶媒を使用している医薬品の使用は避ける必要があります。主な医薬品にシクロスポリン、タクロリムス水和物、プロポフォールなどの脂肪乳剤、パクリタキセルがあります。

 

 

化学的配合変化

(1)濃度
溶液中での薬剤の分解は濃度依存性となります。つまり、濃度が高いほど分解能が高くなります。

 

(2)pH変動
注射剤の配合変化の中で最も多い要因がpH変動によるものになります。注射剤は主薬を安定化させたり可溶化するために、pHが調整されています。そのため、他剤と混合することでpHの変動が生じ、沈殿、混濁、結晶析出、含量・力価の低下を起こすことがあります。
以下に配合変化を起こしやすい酸性注射剤及び塩基性注射剤を示します。

 

<酸性注射剤>

薬剤名

pH

チアミン塩化物塩酸塩注射液 2.5〜4.5
アドレナリン注射液 2.3〜5.0
注射用エピルビシン塩酸塩 4.5〜6.0
注射用ドキソルビシン塩酸塩 5.0〜6.0
ドパミン塩酸塩注射液 3.0〜5.0
注射用ガベキサートメシル酸塩 4.0〜5.5
ドブタミン塩酸塩注射液 2.7〜3.3
ノルアドレナリン注射液 2.3〜5.0
ブロムヘキシン塩酸塩注射液 2.2〜3.2
ミダゾラム注射液 2.8〜3.8

 

<塩基性注射剤>

薬剤名

pH

注射用カンレノ酸カリウム 9.0〜10.0
注射用ガンシクロビル 10.8〜11.4
炭酸水素ナトリウム注射液 7.0〜8.5
フェニトインナトリウム注射液 12
フロセミド注射液 8.6〜9.6
注射用メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム 7.0〜8.0

 

<配合変化の例>
フェニトイン注+ブドウ糖注→白沈(フェニトイン)
フェニトインナトリウム注射液は強アルカリ(pH約12)であるため、pHが低下すると結晶析出してしまいます。希釈使用する場合には、生理食塩液または注射用水で4倍希釈までにとどめ、結晶が析出しない希釈後1時間以内に投与するようにします。5%ブドウ糖液に溶解した場合は、4倍希釈でも結晶析出が報告されているため、通常は溶解液に使用しないことになっています。

 

ホスフェニトインナトリウム水和物注の開発

フェニトインナトリウム注は原薬が水に難溶性であるため、強アルカリ性(pH約12)で浸透圧比が約29の注射剤として製剤化されています。浸透圧比が高いと痛みを感じます。実際に副作用として疼痛、発赤、腫脹等の炎症や血管外漏出による壊死等が報告されていて、これらが問題になることがあります。

 

そこで開発されたのがホスフェニトイン水和物注で、フェニトインのプロドラッグで、生体内で加水分解されてフェニトインとなり薬理作用を発揮するようになっています。製剤的特徴としては水に溶けやすく、pH8.5〜9.1、浸透圧比が約1.9の溶液で刺激性がほとんどなく、生理食塩液、5%ブドウ糖液のほか各種輸液等で希釈が可能となっていて、フェニトインの欠点を改善した製剤になっています。

 

しかし、ホスフェニトイン水和物注の欠点は薬価が高いことと冷所保存であることが挙げられます。ちなみに平成24年度時点での薬価はフェニトイン注はアレビアチン注250mgで132円、ホスフェニトイン水和物注はホストイン静注750mgで6,361円となっています。

 

(3)  酸化還元反応
フェノール、カテコール骨格は酸化されやすい性質があります。カテコール骨格をもつドパミン塩酸塩は、塩基性溶液中で酸化的分解を受けメラニンを生じ、茶黒色に着色することが知られています。そのため、ドパミン塩酸塩は塩基性薬剤との混合を避けなければなりません。

 

(4)  光分解
光が酸化・還元反応あるいは加水分解を促進させることがあります。そのため、直射日光が薬剤に当たると薬剤が分解してしまうことがあるために遮光バッグなどを使って遮光しなければならない場合があります。

 

光のエネルギーは波長が短いほど、増大するため可視光線(380nm〜780nm)よりも波長の短い紫外線(185nm〜380nm)の方が薬剤の分解を促進します。つまり、この性質をもつ薬剤は日光により分解しやすいため、直射日光を当ててはいけないことになります。入院して窓側のベッドで輸液等を使用する場合は長時間日光に当たる機会が増えるため、この点には注意しなければなりません。

 

 

(5)  コロイドの凝集
直径1nm〜1μm程度の粒子をコロイド粒子といい、コロイド粒子が水などの溶媒に溶けて均一に分散している状態の溶液をコロイド溶液といいます。コロイド粒子はプラスやマイナスの電荷をもっているので、少量の電解質を添加すると電荷が中和されて凝集・沈殿を起こすことがあり、これを凝析といいます。

 

注射剤の中にはコロイド溶液で製剤化されているものがあり、電解質溶液(生理食塩液等)と混合すると沈殿を起こすことがあります。
コロイド製剤には、高カロリー輸液用微量元素製剤注射用アムホテリシンB(ファンギゾンR)、エリスロマイシンラクトビオン酸塩(エリスロシンR)などがあり、沈殿形成を避けるために、5%ブドウ糖液や注射用水等の非電解質製剤を使用します。

 

 

その他の配合変化

メイラード反応

 メイラード反応は、カルボニル基(-CO-)アミノ基(-NH2-)が反応することで起こる着色反応のことを言います。つまり、糖とアミノ酸の混合液が褐色変化する反応になります。

 

この反応は以下に示す3段階に分かれて進行すると考えられています。
@    アミノ基とカルボニル炭素の縮合反応により、窒素配糖体やアマドリ化合物が形成する。
A    これらの化合物から種々のカルボニル化合物に分解する。
B    分解したカルボニル化合物とアミノ化合物が重合し、褐色物質メラノイジンを生成する。

 

これらの一連の反応を抑制する方法として、ダブルバッグ製剤が使用されることがあります。ダブルバッグ製剤は、ブドウ糖とアミノ酸を上室と下室の隔壁に分け、使用時に開通・混合して使用するキット製品をいいます。


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