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栄養サポートチーム(NST:Nutrition Support Team)

入院患者において、栄養障害は食思不振や疾病による消化管の機能が低下もしくは障害されることで吸収・消化が十分にできないために起こります。

 

栄養障害を起こすと疾患の治癒が遅くなったり、感染症にかかりやすくなったりするので、栄養障害は早めに対処しないと患者のQOLを著しく下げることにつながっていきます。

 

急性期の脳血管障害だったり、がん治療により消化管に外科手術を受けることでも栄養障害が起こることが多くあり、薬物治療に加えて栄養治療が必要となります。

 

栄養治療により改善が見込めると判断される患者の例として、①脱水状態にある入院直後の患者、②抗がん剤による治療を開始する者、③脳卒中を発症して救急搬送された直後の患者、④集中的な運動器リハビリテーションを要する状態にある患者などが挙げられます。

 

このような患者に対して、個々の患者に応じた栄養療法を行うために、医師のみならず看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師のような専門的な知識や技能をもったスタッフが集まり、多角的な視野から栄養サポートをしていこうという取り組みが行われるようになりました。

 

このチームを栄養サポートチーム(NST:Nutrition Support Team)といい、多くの医療施設でNSTによる栄養療法が展開されています。

 

 

NSTにおける薬剤師の役割

NSTにおける薬剤師は、高カロリー輸液(TPN)の処方設計支援や無菌調剤を行います。病態に応じて、静脈・経腸栄養療法における処方支援を行ったり、栄養製剤の選択に関与することもあります。

 

他にも安全管理の面から、栄養治療に使用するカテーテルや輸液ラインなどで医療材料の適正使用が行われているかの指導・対策を行ったり、感染防止対策に関わることもあります。

 

医療施設によっては、院内ラウンドに同行することもあり、入院患者の栄養アセスメントを行うことがあります。ラウンドで入院患者の嚥下状況、皮膚の乾燥具合、爪の色などを直接観察することによって、食事の摂取状況や栄養状態を把握します。

 

医師や看護師だけでも患者の栄養状態について議論していくことは可能です。しかし、薬剤師が入ることで、栄養剤による治療薬剤への影響や薬剤を粉砕して栄養剤に混合可能かなどの情報を提供することが可能となります。

 

他にも薬剤師の重要な役割として、薬剤管理指導業務があります。通常実施している服薬指導や副作用確認のほか、栄養療法に関する内容を説明していくことで、入院中や退院後の栄養学的な問題点や注意点を指摘することができるようになります。

 

このように薬剤師がNSTに加わることによって、薬物療法と栄養療法を効果的にかつ安全に行っていくことが可能で、充実したファーマシューティカルケアを実践していくことにつながっていきます。

 

 

<NSTにおける薬剤師の役割>

①    静脈・経腸栄養療法における処方支援
②    栄養療法における医療材料の適正使用
③    栄養管理を含めた薬剤管理指導業務        など

 

 

 

NST導入による効果と施設基準

NSTの導入により、高カロリー輸液(TPN)施行症例数の減少と経腸栄養症例数の増加が報告されています。これはNSTにより病態に合わせた薬剤選択がされ、適切な医療が行われたことを示しています。

 

また、抗菌薬購入量、抗MRSA薬購入量が急性期、慢性期病床ともに大幅に削減されたという報告もあり、NSTによる医薬品の適正使用が行われた結果、医療費の削減にもつながっています。

 

このようにNSTの活動は評価されており、平成22年4月の診療報酬改定では、チーム医療関連として「栄養サポートチーム加算」が新設されました。算定要件、施設基準等を簡略化して以下のように示します。

 

【目的】患者の生活の質の向上、原疾患の治癒促進および感染症等の合併症予防

 

【対象】栄養障害の状態にある患者や栄養管理をしなければ栄養障害になることが見込まれる患者

 

【算定要件】 栄養サポートチーム加算(週1回)200点
①    対象患者に対する栄養カンファレンスと回診の開催(週1回程度)
②    対象患者に対する栄養治療計画の策定とそれに基づくチーム診療
③    1日当たりの算定患者数は1チームにつき概ね30人以内とすること 等

 

【施設基準】
当該保険医療機関内に、専任の下記①~④により構成される栄養管理に係るチームが設置されていること。また、以下のうちのいずれか1人は専従であること。
①    栄養管理に係る所定の研修を修了した常勤医師
②    栄養管理に係る所定の研修を修了した常勤看護師
③    栄養管理に係る所定の研修を修了した常勤薬剤師
④    栄養管理に係る所定の研修を修了した常勤管理栄養士
上記のほか、歯科医師、歯科衛生士、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、言語聴覚士が配置されていることが望ましい。

 

なお、薬剤師における「所定の研修」とは、医療関係団体等が認定する教育施設において専門的な知識・技術を習得するための研修を40時間以上受講し、当該団体より修了証が交付される研修を指す。

 

このように施設基準は決して低くはありませんが、NSTの活動は評価されていて今や全国の病院で取り組みが行われています。NSTに配属される機会があれば、薬学的知識を生かして、チーム医療および患者に貢献できるような活動を行いたいものです。

 


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