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ジェネレーターによる製造

放射性医薬品を診断に使用する場合、被験者への放射線被ばくを必要最小限に抑える必要性があります。そのため、物理的半減期が数分~数日の範囲であることが望ましく、さらにはα線やβ線を放出せずγ線のみを放射する核種が望ましいとされています。

 

テクネチウム(99mTc)は現在最も利用価値の高い核種で、医療機関で最も多く用いられています。99mTcの半減期は6.01時間であり、様々な臨床検査を行う上では十分でかつ放射線被ばくを抑えられる時間と言えます。さらに99mTcはβ線を放出せず、γ線のみを放出し、安定したエネルギーを得られるために、イメージング検査で良好な画像を得ることができます。

 

半減期の比較的長い親核種から半減期の短い娘核種を分離し、利用できるようにした装置をジェネレーターといい、親核種から娘核種を取り出す操作を、乳牛からミルクを搾り出す操作に見立てて、ミルキングといいます。99mTcはモリブデン(99Mo)からジェネレーターを使って99mTcをミルキング操作によって分離し、日常臨床に使用されています。

 

 

 

β-崩壊
β-崩壊は、原子核の中の中性子1個が陽子に入れかわることで、核のエネルギー状態が安定することをいいます。99Moは66時間の半減期でβ-崩壊によって、中性子が陽子に入れかわることで原子番号が一つ増えて99mTcに変わります。

 

核異性体転移(IT:isomeric transition)
核異性体転移(IT)とは励起状態にある核異性体が原子核の余分なエネルギーをγ線として放出して基底状態に移る現象をいいます。このような現象をγ崩壊ともいいますが、γ崩壊は10-12~10-16秒というごく短い間に起こりますが、ITは10-6~10-10秒でγ崩壊します。

 

核異性体は基底状態の原子核と陽子数および中性子数が同じものですが、エネルギー準位が異なっていて、励起状態が長くなるために崩壊時間が長くなっています。このような状態を準安定状態(metastabble state)と表現し、質量数の次にmを付けて表示します。したがって、ITはγ崩壊の一種ですが、核異性体が関わっている点でγ崩壊とは区別します。

 

99mTcは6時間の半減期でITが起こり 99Tcとなります。このとき放出されるγ線のエネルギーは140keV(キロエレクトロンボルト)であり、このエネルギーを臨床応用しています。なお、99Tcはさらにβ-壊変をして原子番号の一つ多い99Ruになりますが、このときの半減期は21万年となっています。

 

 

放射性医薬品の種類と用途

99mTc標識化合物

99mTcは形成する錯体によって生体内の動態が異なります。これを利用して以下のような様々な診断に利用されています。

 

【半減期】6.03時間
【適用】各種脳疾患の診断(脳出血、脳腫瘍など)、甲状腺疾患、唾液腺疾患など
99mTc-過テクネチウム酸イオン⇒甲状腺および唾液腺疾患
99mTc-テクネチウムスズコロイド⇒肝・脾臓疾患の診断
99mTc-ジメチルカプトコハク酸テクネチウム⇒腎シンチグラフィー
99mTc-ヘキサメタジムテクネチウム⇒脳血流シンチグラフィー

 

 

201Tl標識化合物

タリウムはカリウムイオンとよく似たイオン半径をもっており、Na,K-ポンプ(Na,K-ATPase)によって心筋細胞に取り込まれて集積します。そのため、タリウムは心機能診断薬、心筋シンチグラフィー剤として利用されます。

 

そのほか、201Tlは種々の腫瘍にも親和性があり、高い集積性があるため、脳腫瘍や甲状腺癌の腫瘍シンチグラフィーにも使用されています。

 

【半減期】73時間
【適用】心筋疾患の診断、脳腫瘍の診断、甲状腺などの悪性腫瘍の診断

 

 

67Ga標識化合物

ガリウムは腫瘍へ高い集積性を示すので、リンパ腫や肺癌などの悪性腫瘍診断に使用されています。腫瘍特異性が低いため、小さな病巣の検出は不可能とされています。また、ガリウムは炎症部位にも集積する性質があるため、炎症性疾患の診断にも使用されます。

 

【半減期】78.1時間
【適用】悪性腫瘍、炎症性疾患の診断

 

 

111In標識化合物

インジウムはトランスフェリンと結合して鉄イオンと類似した動態を示し、造血骨髄にし集積する性質があるため、骨髄シンチグラフィーに使用されます。

 

【半減期】67.4時間
【適用】骨髄疾患診断薬、骨髄シンチグラフィー

 

 

放射性ヨウ素標識化合物

医療で使用されるヨウ素は123I、125Iおよび131Iの3種類となっています。123Iは半減期が短く、放出するγ線のエネルギーがガンマカメラによる検出に最適であるため、診断用核種として使用されています。
また、ヨウ化ヒプル酸ナトリウム(131I)は、尿細管から排泄されることを利用して腎機能を評価する動態検査のレノグラムに用いられることもあります。

 

125Iはγ線を放出しますが、γ線のエネルギーが弱い核種です。さらに半減期が長いため、イメージング剤には不向きとされています。しかし、検出が容易なためラジオイムノアッセイなどのin vitro検査に広く応用されています。

 

131Iは治療用に利用されている唯一の核種です。131Iはβ-崩壊により、β線による被ばくの量が高く、高いエネルギーのγ線を放出することと、さらに半減期が8.02日と長いことから診断用よりも治療用として使用されています。

 

【半減期】123I→13時間、125I→59.4日、131I→8.06日
【適用】
ヨウ化ナトリウム(123I)カプセル→甲状腺疾患の診断、甲状腺機能検査
ヨウ化ナトリウム(131I)カプセル→甲状腺機能検査、甲状腺機能亢進及び甲状腺癌の治療
ヨウ化ヒプル酸ナトリウム(131I)注射液→腎機能検査(レノグラム)、腎・尿路疾患診断

 


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