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医薬分業

医師、歯科医師が患者を診察して治療に必要な医薬品を処方し、処方せんを発行します。薬剤師は処方せんを受け取り、調剤を行い、調剤した薬剤を患者へ交付します。

 

このように処方と調剤をそれぞれ独立したから立場から行い医療を提供するシステムを医薬分業といいます。医師が処方を行う権限をもち、薬剤師が調剤をする権限をもつことでお互いの職能を発揮し、専念できることから、医療の質の向上が期待できます。

 

医薬分業の歴史は古く、中世ヨーロッパで毒殺防止のため、処方せんを書く者と処方せんを見て調剤を行う者を分離したのが始まりとされています。

 

現在ではほとんどの先進国で医薬分業は行われており、日本で本格的に始まったのは1974年(昭和49年)で、その年は分業元年とも言われています。

 

厚生労働省は医薬分業を勧めており、地域差はありますが、全国平均の医薬分業率は66.1%となっています。今や病院で処方せんを発行してもらい、薬局で医薬品を受け取るという一連の流れは当たり前になっています。

 

 

医薬分業のメリット

@   待ち時間の短縮
分業される以前は病院で診察を受けた後、病院にある薬局で薬をもらうという流れでした。このとき待合室は人でいっぱいで薬をもらうのも時間がかかっていました。

 

医薬分業になることによって、患者は薬をもらう場所を自由に選択できるようになり、薬をもらうまでの時間を短縮できるようになっています。

 

大学病院や総合病院は院外FAXコーナーを設置しているところもあり、そこで自分の指定する薬局へFAXを依頼することができます。FAXの後、実際に患者が薬局へ取りに間に調剤され、薬局で待ち時間が少なく受け取ることができるようになっています。

 

 

A   薬剤師の業務拡大
院内で薬をもらっていた当初、薬剤師は外来患者の調剤がメイン業務であり、入院患者に対してケアが行き届いていませんでした。

 

薬剤師は薬学的知識を持っており、その知識をもとに調剤をはじめとする業務を行っています。大学病院など専門的な疾患を取り扱う施設においては深い知識をもった薬剤師が多く、医師に助言を求められる薬剤師も少なくありません。

 

外来患者の調剤業務を行わなければならない場合、これらの業務に時間を割くことができませんでした。医薬分業されることで、調剤業務の負担を減らすことができ、時間にゆとりがでてくるため、入院患者へ服薬指導を充実させたり、医局のカンファレンスへ参加できるようになり、結果的に入院患者への薬物治療をより良いものにすることができます。

 

また、人員と時間を割り当てることができることから、無菌製剤の調剤やDI業務など新しい業務を拡大することができるようになります。病院側としても人員を確保できるようになるため、人件費を節約することができます。

 

 

B   薬の重複および飲み合わせ確認
患者はかかりつけの病院がある場合がありますが、同時に他の病院を受診することもあります。風邪にかかると内科を受診しますし、皮膚疾患にかかると皮膚科を受診しますし、歯医者にも整形外科にも受診をすることはあります。

 

このとき、紹介状などがない限り病院間で個人情報は共有されないことがほとんどで、患者からの情報で判断して処方を行わなくてはなりません。同時に複数の病院を受診するとき、別の病院で同じ薬が処方される可能性があります。

 

特に最近はジェネリック医薬品が普及しており、薬剤の名称が違っていても同じ成分のお薬ということもあります。

 

そこで、かかりつけ薬局であれば、服薬情報の履歴を管理していますので薬の重複がないかとか飲み合わせのチェックをすることができます。

 

服薬情報を管理するツールとしてお薬手帳があります。受診する全ての患者が遂行するよう義務付けされています。東日本大震災のとき、服用している薬の情報が分らなくなってしまいましたが、お薬手帳を持っていたため何を服用していたか確認がとれ、薬の服用を継続できました。

 

医薬分業はかかりつけ薬局とお薬手帳を活用して安全な薬の使用ができるというメリットがあります。また、重複投与を避けることで安全性のみに限らず、無駄な医療費をかけずに済むということにもつながっていきます。

 

 

C   医師の処方薬の拡大
病院に勤務する医師が処方を行うとき、通常は院内で採用された薬のリストにある医薬品の中から処方設計を行います。これは院内独自のルールとして決まっていることが多く、在庫がない場合は処方することができなかったり、患者の希望通りの銘柄の薬が処方できない場合があります。

 

このとき薬を受け取ることが院外の薬局でできれば、医師は自由に処方設計ができ、患者の希望する銘柄も処方することが可能になります。医師の手元に使用したい薬がなくても、患者に必要な薬を処方できるメリットがあります。

 

 

D   病院の医薬品購入費削減
病院内で薬を調剤して渡す場合、その分の薬を備蓄しておく必要があります。分業で院外へ外来患者をまわすことができれば、医薬品の在庫数を減らすことができ、購入に充てられている予算を減らすことができます。

 

しかし、病院は薬価差益で利益をあげているところも現状としてあります。医薬品の在庫を減らすことで減収となる場合もあるため、病院にとって一概にメリットとはいうことはできません。

 

時間に余裕ができた薬剤師が病棟業務をすることによって新たに収益を上げることができている病院もあり、病院経営や薬剤師の業務のあり方が問われています。

 

薬価差益

医薬品は薬価基準によって公定価格が決められています。病院や薬局は実際に卸業者から医薬品を購入していますが、そのときの価格は卸業者との間で予め購入価格が交渉されています。その結果、公定価格との差額がするため、その差益をいいます。

 

 

医薬分業のデメリット

@   時間と経費がかかる
これまで病院で薬をもらっていたのが、わざわざ病院外の薬局へ行って薬をもらうということになると、薬局へ行く手間がかかります。足が不自由な患者や天候が悪いときなどはこのことを実感せざるを得ません。

 

また、調剤薬局によっては待ち時間がないとも言えまないため、薬をもらうということにトータルの時間で考えると院内での待ち時間の方が短くて済むということもあります。

 

薬局では調剤報酬が発生するため、病院でもらっていたときと比べるとどうしても割高になってしまいます。医療費の増加させることにもつながっていきます。

 

薬局側は患者の時間とお金の対価として、誰もが納得できるようなサービスを提供していく必要があります。薬局によっては付加価値をあげようと工夫しており、栄養士による栄養指導を行ったり、ドライブスルーを行ったりしているところもあります。

 

医療費の高騰を抑えるためにも全ての薬局サービスを医療費でまかなう必要はありませんが、患者の満足度を上げるため、薬局側の努力が必要となっていくと思われます。

 

 

A   調剤薬局の在庫の増加
医師が自由に処方設計できるようになる反面、それを受け入れる薬局側の負担は増えます。原則として、患者の薬局選択は自由であり、薬局は調剤を正当な理由がない限り拒否することはできません。

 

多くの薬局が病院の近隣に独立して存在していて、これらの薬局のことを門前薬局といったりしています。門前薬局は近隣病院の処方せんを多く受けるため、自然とその病院がよく使うような在庫品目になってしまいます。

 

皮膚科や耳鼻科や小児科などは特にその意味合いが顕著で、診療科独特の品揃えとなってしまいます。そのため、まったく別の診療科からの処方または遠方の病院からの処方の場合、在庫がないという事態が起こります。

 

このとき薬局は新たに医薬品を取り寄せる必要があるのですが、結果的に在庫が増加することになり、薬局側の負担となってしまいます。患者側としてもすぐに薬を手に入れるまで時間がかかってしまうという不利益を被ることとなります。

 

 

まとめ

医薬分業について、コストに見合ったメリットが得られないということで薬局がバッシング受けることがあります。このような批判が出るということは、薬局がまだすべての国民のニーズを満たしきれていないということの表われであり、薬局側はこれを真摯に受け止める必要があります。

 

今後、医薬分業で調剤以上のサービスを国民に提供していけるのか考え、実践していく必要があります。

 


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