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小児の薬用量

小児のからだは成長過程にあり、日々成長していきます。誕生は3kgですが、1歳になる頃には10kgにまでになっています。その後1年でおよそ2kgずつ増えていき、10歳になる頃には30kgになります。成人の場合、生活習慣に劇的な変化がない限り、このような変化はありません。

 

また、小児は個人差が大きく、小学6年生にもかかわらず、成人並みの体格の子もいれば、平均以下の体重の子もいます。このように小児は成長著しいことと個人差が大きいのが特徴です。
したがって、小児の薬用量は成人とは違って、それぞれの患者に合わせた薬用量を設定する必要があります。

 

薬用量を設定する因子の1つに体重があります。薬局で体重の確認を行うのはこのためで、処方せんに記載された薬用量が妥当な量かどうか確認を行います。
同じ年齢であっても体重が多ければ薬用量は多くなり、少なければ薬用量は少なくなります。薬用量を設定する因子として体重以外に年齢、体表面積があります。

 

小児の薬用量を設定する方法論として、年齢や体重や体表面積をもとに、数多くの計算式や表が提示されています。算出式の1つにAugusberger式があり、年齢を使って計算し、成人量のどのくらいの割合の量になるかという具合に計算します。

 

 

Augusberger式

 

 

10歳のときは、成人量×0.6、5歳のときは、成人量×0.4という具合になります。Augusberger式は体表面積とよく一致するうえ、使い方が簡便なので広く用いられていますが、未熟児・新生児については、そのまま適合できないため、von Harnackの表が広く用いられています。

 

新生児

6か月

1歳

3歳

7.5歳

12歳

成人

1/10

1/5

1/4

1/3

1/2

2/3

1

von Harnackの表

 

 

小児に用いる薬剤は体重1kg当たりのどのくらいの量を使用できるか添付文書上で決められているものもあり、この場合は、体重で換算して薬用量を算出します。例えばタミフルドライシロップは小児の場合、4mg/kg/日と決められています。10kgの小児の場合、1日量は40mgと計算されます。

 

このように小児の薬用量は計算式や表を用いて設定することができます。しかし、このように機械的に計算して設定するだけでは不十分で、小児の吸収・分布・代謝・排泄といういわゆる薬物動態の特徴を理解する必要があります。小児へ薬物を投与する際の注意点について以下に述べていきたいと思います。

 

 

薬剤投与における注意点

① 新生児・乳児は胃内pH値が高い
新生児や乳児は胃内の酸性度が成人よりも弱く、胃内pH値は中性程度であり、生後数ヶ月~3歳頃までに成人と同程度となります。胃内のpH値が高くなると酸性薬物の吸収が低下してしまいます。

 

そのため酸性薬物の効果が不十分となるため、確実な薬効発現が見込めなくなってしまいます。抗てんかん薬や抗生剤は対象疾患の予防や治療のためには確実な投与がされなければなりません。したがって、経口投与から直接血液中に投与を行うことができる静脈内投与などに切り替える必要性が出てきます。

 

<胃内pH値が高いと酸性薬物の吸収が低下する理由>
薬物は体内に入るとイオン型と分子型で存在しています。薬物がどの状態であるかは周囲のpH値と薬物そのものが酸性かアルカリ性かによって大きく影響します。例えば、酸性薬剤は酸性下では分子型で主に存在し、アルカリ性下では主にイオン型で存在します。通常の胃内pHは酸性のため、多くの酸性薬剤は胃内では分子型で存在することになります。
薬物は体内に分子型で吸収され、イオン型だとほとんど吸収されない状態となってしまいます。この結果から、胃内pH値が高くなると、酸性薬物の吸収は低下することになります。

 

 

② 新生児・乳児は水分量が多い
小児は成人よりも体内の水分量が多いです。小児は肌がみずみずしく張りがありますが、年を重ねると肌は乾燥し、しわしわとなっていきます。この様子からも分るように小児は水分の割合が多く、高齢者になると脂肪分の割合が増えていきます。

 

小児の体内の水分量が高いのは細胞外液が占める割合が高いためですが、水分量が多いと薬物に影響があります。特に水に溶けやすい水溶性薬剤は影響を大きく受けてしまいます。

 

薬物は体内に吸収されると、血流に乗って全身へと運ばれていきますが、細胞外液が多くなってしまうと、体内の水分に溶けやすいため、広く分布するようになります。その結果、血液中へ入る薬物の量が減り、体重当たりの投与量が同じであったとしても、小児の方が薬物血中濃度が低くなってしまい、有効な濃度を得ることができなくなります。実際、水溶性のアミノグリコシド系抗生剤のゲンタマイシンという薬剤は、成人量よりも小児の用量が高く設定されてあります。

 

 

③ 血中アルブミン値が成人より低いため、薬剤の効果が強くなることがある
新生児や乳児は成人と比べると血中のアルブミンの濃度が低くなっています。小児の場合、アルブミンが少ないため、アルブミンと結合していない遊離型の薬物の割合が多くなります。遊離型の薬物の割合が高くなると薬効に影響します。

 

薬物は血中ではアルブミンと結合しています。どのくらいの薬剤がアルブミンと結合するかは薬剤によって異なり、アルブミンに結合しやすいものもあれば、ほとんどくっつかないものもあります。アルブミンなどの蛋白質と薬物がどのくらい結合するかを蛋白結合率といいます。

 

アルブミンに結合している薬物は薬効を示さず、遊離型の薬物が薬効を示します。
したがって、遊離型の薬物が多くなると薬剤の効果や副作用が強く出やすくなります。蛋白結合率の高い薬剤にフェニトインという抗てんかん薬がありますが、フェニトインは血中濃度が上昇すると肝機能障害や血液障害を起こすことがあります。

 

血中アルブミン濃度の低い小児の場合に投与すると、総血中濃度は低くても遊離型のフェニトイン濃度は低値でなく副作用を発現する可能性があります。この場合、血中の薬剤濃度をモニタリングして最適な血中濃度であるか確認する必要があります。

 

 

④ 遊離型ビリルビン濃度を上昇させる薬剤を原則として投与しない
新生児は通常赤血球の破壊が起こっていて、肝機能が低いために生理的に黄疸を起こします。黄疸は成人で肝機能が衰えていて、体内にビリルビンが増えてくるために起こります。ビリルビンはアルブミンと結合しますが、結合していないビリルビン(遊離型ビリルビン)が増加すると新生児は核黄疸を起こしてしまいます。

 

新生児にビリルビンよりもアルブミンに結合しやすい物質を投与することで、遊離型ビリルビン濃度は増加します。実際に抗菌薬のサルファ剤を投与したため、核黄疸を起こした症例が報告されており、原則として新生児へのサルファ剤の投与は行わないことになっています。

 

核黄疸

新生児の未発達な脳のバリア(脳血液関門)を遊離型ビリルビンが通過し、脳内の大脳基底核に特異的に結合することで起こる脳症。脳性まひや難聴などの後遺症が残ったり、死亡に至ることもある。

 

⑤ 新生児・乳児は肝機能と腎機能の発達が未熟なため、副作用が強く出ることがある
薬物は肝臓で無毒化されますが、薬物は酸化、還元、水酸化されて構造的に変化して体外へと排出されます。無毒化は代謝酵素を介して行われますが、代謝酵素によっては酵素活性が低いものがあります。代謝が遅くなるとその分体内に長く貯留することになるため、副作用が出やすくなります。

 

クロラムフェニコールという抗菌薬は成人において、血中濃度が半減する時間(半減期)が4~6時間程度ですが、新生児の半減期は20時間程度となりなってしまいます。過去にクロラムフェニコールを投与された乳幼児に、投与後に皮膚の色が灰色となり、循環器不全をきたして亡くなってしまう症例(gray baby syndrome)がありました。この原因は新生児の肝機能が未発達で酵素活性が低かったことと、腎臓からの排泄能力が低かったためとされています。

 

薬物は肝臓で無毒化された後、腎臓で排出されますが、新生児においては腎機能も未熟な状態です。腎機能の一つである糸球体ろ過量は出生時に2~4mL/分、生後2~3日で8~20 mL/分、生後6ヶ月で成人とほぼ同等の100~120 mL/分に変化すると言われています。
したがって、前述のクロラムフェニコール同様に腎臓排泄される薬剤は体内に蓄積しやすいく副作用が出やすくなるため、薬剤によっては血中モニタリングしながら投与量を調節する必要があります。

 

 

⑧ 食品との相互作用や食物アレルギーには注意する
食品と飲み合わせの悪い組み合わせの代表的な例として、納豆とワーファリンの飲み合わせがあります。納豆に含有されるビタミンKの影響でワーファリンの効果が減弱してしまいます。

 

小児の場合、気をつけるべき食品にミルク牛乳があります。新生児や乳児の主食はミルクですが、テトラサイクリン系薬剤やニューキノロン系薬剤は牛乳やミルクと一緒に服用すると吸収が低下してしまいます。他にもセフェム系薬剤は鉄分を含有するミルクと一緒に服用すると鉄分と薬剤が反応して便が赤く着色したり、吸収が低下したりします。

 

このように小児がよく食することが多いミルクや牛乳とは飲み合わせの悪い薬剤があるので、この場合は水やお白湯で服用する必要があります。

 

また、薬剤によっては卵アレルギー牛乳アレルギーの小児が服用するとアレルギー反応を起こすものがあります。アレルギー反応によってはアナフィラキシーショックを起こすこともあるため、十分な配慮が必要です。

 

薬局で投薬を行うときアレルギーの有無を必ず確認しているので忘れずに申し出なければなりません。

 

牛乳アレルギー児に投与してはいけない薬剤として、乳酸菌製剤、酪酸菌製剤、タンニン酸アルブミンなどがあります。


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