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ヒルドイドソフト軟膏、ヒルドイドクリーム、ヒルドイドローションのちがい

これら3つの薬剤の有効成分は共通していて、ヘパリン類似物質0.3%を含有しています。使用用途として主に保湿目的で用いられています。

 

これらは有効成分が同じですが、剤型の特性に合わせて適切な患部や症状に使用しなければなりません。そのためには軟膏、クリーム、ローションといった剤型について理解をする必要があります。

 

結論からいうと下記のようになります。

ヒルドイドソフト軟膏伸びやすく、保湿効果の他に皮膚を保護する効果も期待できる。
 
ヒルドイドクリーム伸びやすい。軟膏よりも水で洗い流しやすい。
 
ヒルドイドローション非常に伸びやすく、広範囲に使用しやすい。塗布後さらっとした感じがある。

 

 

以上の特性を理解するためには、それぞれの剤型の基剤について理解する必要があります。

 

外用剤には主薬はごくわずかでほとんどは基剤で構成されています。そのため、基剤が主薬の吸収に与える影響は非常に大きいと言えます。

 

基剤には油脂性基剤水溶性基剤があり、基剤は皮膚の状態と浸潤液の有無により使い分けられます。油脂性基剤には皮膚保護作用があり、水溶性基剤には分泌液を除去する作用があります。

 

皮膚の創傷があり保護する必要がある場合は脂溶性基剤を使うことが多く、皮膚から分泌液がある場合は、除去効果が期待できる水溶性基剤が多く使用されます。

 

 

軟膏剤とクリーム剤の違い

大ざっぱに言うと、基剤がどの程度油っぽいかまたは水っぽいかという違いになります。

 

本来、油と水は混じり合うことはできません。しかし、これに乳化剤と呼ばれる物質を加えることによって、油分と水分を混ぜ合わせることができます。油分と水分を混ぜ合わせることを乳化といいます。

 

油に少しずつ水を加えて完全に水にすると考えたとき、油分から水分へ近づくにつれて、ベトベトした感じからサラサラとした感じへ移行していくことをイメージします。

 

このとき、油から水へ移行する段階で両方が存在する状態があり、油分が水分よりも多い状態を水中油型(W/O型)、油分が水分よりも少ない状態のものを油中水型(O/W)といったりします。

 

油分の相と水分の相が両方ある状態の基剤を乳剤性基剤といい、クリーム剤の基剤は乳剤性基剤となります。

 

また、イメージの通り油分が多いW/O型は塗り上がりがべとつく感じがあり、水分が多いO/W型はさらっとした感じがあります。乳剤性基剤は脂溶性基剤と水溶性基剤の両方の性質を保持しているともいえます。

 

軟膏剤には代表的な基剤にワセリンがあります。ワセリンは皮膚保護作用をもち安全性も高いことから、単独で使用されることも多くあり、ワセリンは油脂性基剤としても汎用されています。

 

油脂性基剤の長所は皮膚保護作用があり、皮膚への刺激が少ない点ですが、短所は塗布後のべたつき感が強く、水で洗い落しにくいことと、分泌液を吸収できないので塗布した部分に分泌液が留まり汚染源となる可能性があることです。また、動植物由来のものは酸化し変敗しやすいのも難点です。

 

一方、軟膏剤には水を吸収しやすい性質を持つ水溶性基剤もあります。代表的なものにマクロゴールがあり、分泌液を吸収して除去する作用があるため、皮膚から分泌液がある部分に用いられます。また、皮膚が過乾燥状態になる場合もあるため注意が必要です。

 

 

ヒルドイドの開発の経緯

ヒルドイドソフト軟膏は軟膏と称されているが、ヒルドイドソフト軟膏はW/O型のクリーム剤です。

 

開発された経緯として、まず1954年に日本国内でヒルドイドクリームが初めて承認されました。ヒルドイドクリームはO/Wのクリーム剤です。

 

ヒルドイドクリームは表在性静脈炎、血栓症、瘢痕形成の改善などを効能として使用されていましたが、その後、保湿効果が認められたこと、O/W型のヒルドイドクリームにはかぶれなどの皮膚炎の副作用があったことから、1996年にW/O型ヒルドイドソフト軟膏が開発されました。

 

続いて2001年に頭皮の吸収性が優れたヒルドイドローションが販売されました。

したがって、ヒルドイドソフト軟膏は軟膏という名称がついていますが、W/O型のクリーム剤であり、軟膏剤ではありません。

 

ちなみに、現在軟膏やクリームという商品名であっても、実際の剤形がクリームやゲル剤であることがあります。

<例>

オクソラレン軟膏・パスタロンソフト軟膏→w/o型乳剤性基剤

ケラチナミン軟膏・ユベラ軟膏・ザーネ軟膏→o/w型乳剤性基剤

インテバン軟膏・トプシムクリーム→ゲル剤

 

理由は、15局までの日本薬局方において、クリーム剤やゲル剤は軟膏剤と扱われており、軟膏と称しても差し支えありませんでした。しかし、16局から軟膏剤は軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤の3つに分類されるようになりました。

 

そのため、15局が適応されているまでに開発された分については商品名と剤型に違いがある場合がありますが、以後開発される外用薬については一致すると思われます。

薬局方pharmacopoeia

医療上重要と認められている医薬品の性状及び品質の規格書であり、医療関係者にその時代の代表的医薬品を知らせ、品質、強度、純度などの基準を定め、医療の万全を期するため国家が定めた法律書

 

<日本薬局方16局における記載事項>

軟膏剤

軟膏剤は、皮膚に塗布する、有効成分を基剤に溶解又は分散させた半固形の製剤である。

 

クリーム剤

クリーム剤は、皮膚に塗布する、水中油型又は油中水型に乳化した半固形の製剤である。油中水型に乳化した親油性の製剤については油性クリームと称することができる。

 

ゲル剤

ゲル剤は、皮膚に塗布するゲル状の製剤である。本剤には、水性ゲル剤及び油性ゲル剤がある。

 

 

 

ローションについて

ローションは、局方によると「有効成分を水性の液に溶解又は乳化若しくは微細に分散させた外用液剤である」と記載されています。

 

ローション剤は液状または微懸濁上であるため、軟膏剤やクリーム剤よりも伸びがよく使用量が少量でよいので、広範囲に渡って使用する場合に便利です。さらに使用感はサラッとしていて、塗布後も目立ちません。さらに毛髪がある部位にも使用できるため、頭皮に使用する剤形としてよく用いられています。

 

育毛を促進する薬や頭皮の湿疹の薬の剤型にはローションが使用されています。しかし、ほぼ液体のため、軟膏やクリームよりも使う量を指定しにくく、過量使用してしまう可能性があります。また皮膚刺激性が軟膏剤やクリーム剤よりも大きいのが欠点です。

 

 

まとめ

外用剤は内用剤とは異なり、有効成分のみでなく基剤の選択が非常に重要となります。

 

ヒルドイドを使うにあたって、どこの部位に?どのくらいの範囲に?部位の状況は?といった情報から基剤の特性に合わせた選択をしなければなりません。

 

個人の意見としては、ヒルドイドソフト軟膏を基本的に使用し、皮膚の表層に傷がなく、広範囲に渡って使用する場合や塗り上りがすっきりしたい場合はヒルドイドローションを選択する。また、夏場などでべたつきを抑えてすっきりした塗り上りを好むのであればヒルドイドクリームを選択するのがよいかと思います。

 

ドラッグストアなどで外用剤を購入する際、基剤の特性を加味して選択するにようになれれば薬剤をより有効活用できると思われます。

 


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