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粘液線毛クリアランス

ヒトは毎日呼吸するとともにたくさんのホコリや病原体を吸い込んでいます。これらを吸い込んだままの状態だと病気になってしまいますので、ヒトの体にはこれらを排除しようとする防御反応があります。その役割を担うのが咳と痰です。

 

気管は体の内外を行き来する空気の通り道となっています。ヒトは気管内で痰や咳を出すことによって、異物を排除しようとします。そのうち痰の産生に関わっているのが、杯細胞線毛細胞という細胞です。

 

杯細胞は粘液を分泌する作用があり、痰の産生源となっています。この粘液は気管の内腔を覆って気管の表面を異物から守っています。気管支喘息やCOPDなどの呼吸器慢性疾患では杯細胞の数が通常よりも増えていたり、肥大化することから、痰の量が増えるようになります。

 

一方、線毛細胞は細胞上皮の部分に線毛と呼ばれる毛がついていて、ベルトコンベアのように異物を動かす役割をもっています。線毛は杯細胞から分泌される粘液に浸かっている状態で気管の内腔をゾル層の粘液が覆っています。さらにそれを覆うようにゾル層よりも粘り気のあるゲル層の粘液がそれを覆うような状態で存在しています。

 

ゲル層粘液の構成成分は、97%が水分で、残りの3%がムチンと呼ばれる粘液タンパクから構成されており、このゲル層粘液が痰のもとになります。ムチンはムチン同士が結合することで痰のプヨプヨした弾性を作る作用があります。痰の中にムチンの割合が高くなると痰が硬くなり、痰が出しにくい状態になります。

 

また、線毛とゲルの間にはサーファクタントとよばれる潤滑油のような役割を果たしているものがあります。サーファクタントには線毛の毛先がうまくゲル層にあたるように調節し、痰を出しやすくする作用があります。

したがって、異物が入ってくると杯細胞が分泌する粘液で捉え、異物が捉えられた粘液を線毛細胞がエスカレーターのように気管の奥から喉の方へと運んでいき、痰や咳となって体外へと排出されます。喉に到達した痰のほとんどは胃の中に飲み込まれて、便として排出されます。このような仕組みを粘液線毛クリアランスといいます。

 

 

去痰薬を使用する意義

前述のように痰は生体防御反応ですが、痰が出過ぎるのも良くありません。痰が過剰になると気道が狭くなってしまい、喘息やCOPDでは状態を悪化させてしまうこともあります。また、気道が詰まると細菌感染の温床ともなるため、感染をさらに悪化させたり、長引かせてしまうこともあります。

 

したがって、このように痰が出過ぎる状態や痰が詰まって出しにくくなる場合は、去痰薬による薬物治療が必要となります。風邪をひいたとき、咳や痰、湿っぽい咳などが出る場合は去痰薬が処方されるケースが多く、気道の粘液の状態を改善して、治癒しやすい状態にするために使用されます。

 

また、慢性呼吸器疾患の場合は去痰薬を基本的な治療法として継続的に使用していくことがあります。喘息、COPDのような疾患では痰が多くなっている状態にありますので、去痰薬によってこれを改善していきます。

 

 

去痰薬について

去痰薬は作用機序の違いによって大きく2つのタイプに分けられます。1つは粘液を溶かしやすくすることで痰を出しやすくする粘液溶解薬があります。代表的なものにカルボシステイン(ムコダイン)という薬剤があり、ムコダインには粘液を正常に近い状態にして、痰の粘り気を下げる作用があるため、粘液修復薬ともいわれています。最近ではムコダインには抗酸化作用抗炎症作用があることも明らかになっています。

 

もう1つのタイプに、気道粘液分泌促進薬があります。このタイプの薬剤は気道分泌を促進させ、痰の排泄を促す作用があり、代表的な薬剤にアンブロキソール(ムコソルバン)があります。ムコソルバンはサーファクタントとよばれる潤滑油の役割をする物質の分泌を促進させて、痰を排泄しやすくする作用があります。

 

したがって、ムコダインとムコソルバンはどちらも去痰薬ですが、作用機序が異なり、組み合わせることで相乗効果が期待できるため併用されることがあります。

 

両薬剤とも経口薬で錠剤、ドライシロップ、シロップ剤など剤形が豊富で、副作用は比較的少ない薬剤になります。そのため、年齢を問わず使用することができ、小児にも処方されることが多くあります。また、去痰薬は比較的安価なため継続使用しやすい薬剤と考えられます。

 

 

実際の使い方

去痰薬は急性期と慢性期で使い分けたり、痰の状態によって使い分けることがあります。

 

急性期で細菌感染がある場合は、痰が黄色になりますので抗生剤を併用することが多くあります。ウイルス感染の場合は痰の色は透明で、その場合は抗生剤を使用せず去痰剤のみを使用します。また、急性期の痰の量が多い場合はムコダインを使用し、1週間程度症状が改善するまで使用します。

 

しかし、ムコダインの効果の発現は遅く、急性期などで速やかに効果を得たいときは不向きな薬剤と考えられます。そのため即効性を必要とする場合はアセチルシステイン(ムコフィリン)吸入剤で使用します。

 

ムコフィリンは粘液溶解薬タイプの薬剤で、痰の構成成分であるムチンのS-S結合を切り離すことで痰を出しやすくします。通常は気管支拡張剤(ベネトリンなど)と混合して吸入することが多くあります。

 

一方、慢性的に痰の切れが悪い場合はムコソルバンを使用します。ムコソルバンと同様に気道粘膜分泌促進薬であるブロムヘキシン(ビソルボン)が使用されることもあり、ムコフィリンと同じように気管支拡張剤と混合して吸入剤で使用されることも多い薬剤です。

 

ブロムヘキシンは代謝されてアンブロキソールとなりますので、ムコソルバンと併用することでアンブロキソールが重複するおそれがあります。そのため、ムコソルバンやビソルボンは作用機序の異なるムコダインと併用する方が高い効果が期待できると考えられます。

 

慢性期の場合、去痰薬は長期間に渡って使用していきます。去痰薬は長期間服用を継続した方が、気管支喘息やCOPDの悪化を防ぐことできると考えられているため、痰の切れや痰の量や咳の回数などを確認しながら、基本治療として継続的に使用していきます。もし薬の効果が十分でない場合は別の作用機序をもつ去痰薬に変更または併用を行う必要があります。

 

このようにムコダインとムコソルバンの併用療法は、痰を溶かしやすくする作用と痰を出しやすくするという作用の違いから併用することが多く、組み合わせることで相乗効果が期待できる治療方法となります。


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