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ゼルヤンツ錠(一般名:トファシチニブクエン酸塩錠)

どんな薬か?

ゼルヤンツは細胞内のシグナル伝達経路の1つであるヤヌスキナーゼ(JAK)を阻害し、関節リウマチにおける過剰な免疫反応を抑えることによって効果を発揮します。

 

関節リウマチの病態は、TNF-αIL-6等をはじめとする炎症性サイトカインの過剰産生によるものと考えられています。炎症性サイトカインは、受容体に結合して細胞核へシグナルを送ることで、免疫反応を活性化させ、更なるサイトカインの産生を促していきます。この一連の流れが進んでいくことによって炎症反応が進んでいき、軟骨や骨の破壊が起こって最終的には関節が破壊されてしまいます。したがって、何らかの方法により炎症性サイトカインのシグナル伝達を阻害することで過剰な免疫反応を抑えることができると考えられます。

 

サイトカインのシグナルを核内へ伝達する経路は複数知られていますが、その代表的なものの1つがJAKシグナル伝達経路です。ゼルヤンツは、細胞内でサイトカインが伝達していくJAKシグナル伝達経路を標的としています。これまで関節リウマチの治療薬でターゲットとなるサイトカインはTNF-αやIL-6などでしたが、本剤はJAKシグナル伝達経路をターゲットとした全く新しい作用点をもつ薬剤です。シグナル伝達の起点となるJAKの活性化を抑制することで、複数のサイトカインのシグナル伝達を同時に抑制することができます。そのため、関節リウマチにおける炎症を効率的に抑えることができると考えられています。

 

ゼルヤンツは、JAK阻害という新たな作用機序を有するため、関節リウマチのメイン治療薬であるメトトレキサート(MTX)が効果不十分な症例であっても効果を期待することができます。日本リウマチ学会の使用ガイドラインでは、適応が「MTX 8mg/週を超える用量を3ヶ月以上継続して使用してもコントロール不良の関節リウマチ患者」とされています。

 

アザチオプリンやシクロスポリンなどの強力な免疫抑制剤との併用は認められていませんが、他の抗リウマチ薬と併用することも単剤で使用することもできます。さらに、強力な抗リウマチ作用をもつ生物学的製剤は注射剤ですが、本剤は経口投与が可能な錠剤です。これまで注射剤が使用できなかった患者に対しては、本剤は新たな選択肢となります。

 

 

 

副作用は?

本剤は過剰な免疫反応を抑制していく働きがあるため、感染症のある患者への投与は十分に注意しなければなりません。帯状疱疹肺炎敗血症結核などは重篤な感染症は致命的な経過をたどることがあるため、禁忌となっています。感染症予防の観点から、「末梢血白血球 4,000/mm3以上」「末梢血リンパ球数 1,000/mm3以上」「血中β-D-グルカン陰性」を満たすことが推奨されています。

 

血中β-D-グルカンは、真菌の細胞壁を構成する多糖類の1種です。深在性真菌症では血中β-D-グルカン値が上昇するため、深在性真菌症の診断や治療の効果判定などに使用されています。

 

また、関連性は明らかではありませんが、悪性腫瘍の発現が報告されています。そのため悪性腫瘍患者へは、これらの情報を十分に説明し、患者が理解した上で使用されなければなりません。

 

副作用として以下のものが報告されています。
感染症(帯状疱疹など)、肝機能障害、黄疸、間質性肺炎、消化管穿孔、好中球減少、リンパ球減少、ヘモグロビン減少、発熱など。

 

 

使用にあたっての注意点は?

本剤はCYP3A4CYP2C19の代謝酵素によって代謝されることが知られています。そのため同じ代謝酵素で代謝されやすい薬剤、いわゆるCYP3A4阻害薬やCYP2C19阻害薬を併用する場合には注意が必要です。これらの薬剤と併用することで本剤の効果が強く出過ぎることがあるため、減量するなどの対策が必要となる場合があります。

 

例えばマクロライド系のクラリスロマイシンはCYP3A4に代謝されやすいため、本剤がCYP3A4によって代謝されにくくなってしまい、免疫反応を強く抑え過ぎてしまいます。実際に本剤と併用したことで、重篤な感染症を引き起こして入院に至ったというケースが報告されています。クラリスロマイシンは慢性副鼻腔炎などで長期的に使用されることも多いため注意が必要です。

 

CYP3A4阻害薬
マクロライド系抗生物質(クラリスロマイシン、エリスロマイシンなど)、抗ウイルス薬(テラプレビル)、アゾール系抗真菌薬(イトラコナゾール、ボリコナゾールなど)、カルシウム拮抗薬(ジルチアゼム、ベラパミル)、アミオダロン、シメチジン、フルボキサミンなど

 

CYP2C19阻害薬
フルコナゾール

 

また、本剤は腎機能障害肝機能障害時に使用することでも効果が強く発現するため、用量調節が必要となる場合もあります。腎機能や肝機能の状況を確認しながら注意深く使用していく必要があります。

 

 

まとめ

  • 本剤はJAKを阻害することで作用を示す。JAKを標的とする初めての薬剤。
  • 重篤な感染症がある患者には禁忌。
  • CYP3A4阻害薬やCYP2C19阻害薬との併用、腎機能や肝機能の低下により効果が増強される場合があるので用量調節が必要。

 


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