リオナ錠250mg(一般名:クエン酸第二鉄水和物)
名称の由来
リンを(お)治す(なおす)という意味から Riona
どんな薬か?
リオナ錠は高リン血症を改善する治療薬です。食事中に含まれるリン酸と結合することでリンの吸収を抑制します。主成分は第二鉄(3価鉄)となります。貧血治療に鉄剤が使用されることがありますが、第二鉄よりも第一鉄(2価鉄)が多く使用されています。
慢性腎不全(CKD)で腎臓からリン排泄が低下することで高リン血症が起こります。高リン血症状態になると軟部組織にリン酸カルシウムが沈着することによって石灰化を生じ、血管壁が石灰化すると心筋梗塞や狭心症などの心血管イベントが増加することが報告されています。
また、高リン血症では、腎臓におけるビタミンDの活性化障害が起こり、消化管からのカルシウム吸収が低下するため、副甲状腺ホルモンの分泌が亢進され二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)を引き起こします。SHPTが進行すると骨吸収が進み、骨粗鬆症などの骨病変を生じることにつながっていきます。
このように高リン血症は心血管イベントや骨病変を起こす可能性があるため、血清リン濃度を正常範囲にコントロールすることが推奨されています。
リンを減らす方法として、食事からのリン摂取制限、透析によるリンの除去そして消化管からのリン吸収を抑制する経口リン吸着薬の投与があります。これまで経口リン吸着薬として、沈降炭酸カルシウム、セベラマー塩酸塩、ビキサロマー及び炭酸ランタン水和物が用いられていました。
しかし、保存期CKD(透析療法に入るまでの腎不全の状態)の患者の高リン血症治療薬は限られており、沈降炭酸カルシウム(商品名:カルタン)と炭酸ランタン(商品名:ホスレノール)が保存期CKDにおいて使用可能でしたが、リオナ錠は保存期CKDの患者にも適応があり、治療の選択肢が増えることました。
リオナ錠は溶解性が高く、リン結合能が高いのが特徴です。結合能が高い物質としてアルミニウムやランタンがありますが、リオナ錠の主成分である第二鉄はそれらと同等と考えられています。
アルミニウムはリン結合能は高いのですが、長期に渡って使用すると蓄積し、脳症を起こすことが知られているため現在使用されていません。
リオナ錠は生体内必須金属元素である鉄を主成分としているため、蓄積性によるリスクが少ないと考えられます。
既存の高リン血症治療薬
前述のとおり高リン血症治療薬はいくつか存在しますが、どれも食事中のリンを吸着して吸収を抑制するという作用機序で効果を発揮し、リオナ錠もその点は同様です。
各薬剤の違いはリンの吸着をどのような物質で吸着するのかが異なっていて、それぞれの薬剤に特性があります。
現在の治療薬は①金属系の物質と②非吸収性ポリマーの2つに分類することができます。
①に分類される薬剤は、沈降炭酸カルシウム(商品名:カルタン)、炭酸ランタン水和物(商品名:ホスレノールなど)があります。クエン酸第二鉄水和物(商品名:リオナ)もこれに含まれます。
沈降炭酸カルシウムは高リン血症治療薬の中で最も古くから使用されていますが、長期に渡って使用すると高カルシウム血症を起こすことが懸念されます。
また、胃内pHの影響を受けやすく、不溶性のリン酸カルシウムが形成されるためには、うまく薬が作用するためには胃内が酸性である必要があり、服薬タイミングは食直後となっています。
胃酸を抑制するPPIやH2ブロッカーなどの併用により胃内pHが上昇することから、効果が弱くなってしまいますので、併用する場合は注意が必要です。
ランタンは聞き慣れない名称だとは思いますが、ランタンは希土類元素いわゆるレアアースの一つで比較的新しく発見された金属元素です。
炭酸ランタン水和物はリン酸と結合して不溶性の沈殿物を形成し、腸管からのリン酸吸収を抑制します。炭酸ランタン水和物にはカルシウムが含まれていないので薬剤が高カルシウム血症を引き起こすことがありません。
第二鉄もリン酸と結合して難溶性の沈殿を形成します。この薬剤もカルシウムを含んでいませんので高カルシウム血症の懸念がありません。また、胃内pHの影響を受けないと考えられています。
②に分類される薬剤にはセベラマー塩酸塩(フォスブロックなど)、ビキサロマー(キックリン)があります。非吸収性ポリマーは、陽性に荷電した状態で消化管内のリン酸と結合することにより体内へのリン吸収を阻害します。
消化管内へ移動するより前に食事中のリン酸と薬剤が十分に混ざり合う必要性があることから食直前に服用することとなっています。
非吸収性ポリマーは水分を含むことで膨張する性質があります。そのため、高頻度で便秘が起こります。重篤な場合には腸に穴があいてしまうこともあり消化器系の副作用発現に注意が必要です。
また、セベラマー塩酸塩には塩化物イオンが付着しており、過塩素血症性の代謝性アシドーシスが起こる場合もあります。
ビキサロマーはこれらの欠点を補うべく開発されたポリマーで、水分を含んでからの膨張率が小さくなっていて、さらに塩化物イオンが付着していないため、セベラマー塩酸塩に高頻度で発現していた副作用が起こりにくいとされています。
予想される副作用は?
リオナ錠は鉄を主成分としていることから、高カルシウム血症の懸念がなく、ポリマー性の薬剤で発現リスクの高い便秘や腸管穿孔等の重篤な胃腸障害のリスクも少ないと考えられています。また、炭酸ランタン水和物に懸念されるような肝臓等への組織沈着も少ないと考えられています。
これまで報告されている副作用として、下痢(10.1%)、便秘(3.2%)、腹部不快感(2.5%)、血清フェリチン増加(2.7%)があります。消化器系への副作用はあるものの頻度は抑えられている印象があり、鉄が主成分であるため、血清中の鉄組成に若干影響が出ていると考えられます。
その他の注意点
食事中からのリン吸収を抑制するという作用機序は、本剤に限らず全ての高リン血症治療薬に共通しています。そのため、空腹時に服用しても全く効果が得られず、効果を得るためには食直前または食直後に服用する必要があります。
食直前に飲むべき薬を食直後に飲んだ場合またはその逆を行った場合のデータを確認することはできませんでした。しかし、CKD患者においては複数の薬剤を併用するケースが想定され、コンプライアンスを低下させないために、本来の服用方法とは違った服用時間を指示される場合があります。
この場合コンプライアンス改善を優先するべきか薬剤の効果を優先するべきか判断しなければなりません。どちらを優先すべきかは処方医または薬剤師に相談し、判断を仰ぐべきであろうと考えられます。自己判断すると薬の効果が得られないことがあるので危険です。
まとめ
- リオナ錠は主成分がクエン酸第二鉄水和物で、保存期CKDにおいても使用可能です。
- 本剤は長期服用により懸念される組織蓄積、胃腸障害および高カルシウム血症のリスクが低いと考えられています。
- 副作用として下痢(10.1%)、便秘(3.2%)、腹部不快感(2.5%)、血清フェリチン増加(2.7%)が確認されています。