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ライフサイクルマネージメント

ライフサイクルマネージメントとは?

ライフサイクルマネージメントは、製品の成長持続や特許切れなどによる売り上げの低下を防いだり、遅らせたりすることで、製品の命を長らえるために講じる商業的な戦略のことをいいます。

 

通常、製品のライフサイクルは開発、販売を経て、それが人気商品となれば、どんどんと売り上げを伸ばしていき、長期的に販売されていきます。そして残念ながら不人気商品となり売れ残りが多くなっていけば、販売中止となっていくという運命をたどっていきます。

 

また、人気商品であってもずっと売り上げが上がっていく訳ではありません。ある程度売り上げを上げるとその収益の伸びは鈍化しますし、ライバル企業が市場に参入して競合することで収益は少なくなっていきます。さらにライバル企業との競合に負けてしまうと市場から撤退をせざるを得ないような状態となることもあります。

 

このようにほとんどの製品が時間が経過するとこのような運命を辿っていきますが、製品の売り上げを維持するためには、製品をどんどん良いものに改良を加えたり、ライバル企業の製品とは違った特徴を付加していく必要があります。このように売り上げを落とさないように製品をどのように売っていくか、どのように改良していくかの戦略をライフサイクルマネージメントと呼んでいます。

 

 

 

医薬品のライフサイクルマネージメント

医薬品の開発には膨大な時間費用労力がかかっていますので、売り上げの低下を防ぎ、利益を確保することは企業側にとって重要な課題となります。そして、医薬品は人体に直接影響することや発売から長期にわたって使用されていくという特徴があるため、有効性と安全性を重要視しなければなりません。

 

医薬品は有効性と安全性を担保していくことがライフサイクルマネージメントとなります。

 

医薬品の開発段階において、臨床試験が実施されますが、対象となる疾患、対象患者、投与期間などが予め条件づけられており、その結果で医薬品の製造承認の可否が決まります。そのため、データ数は非常に限られたものとなっており、希少疾病など患者数が少ない場合はますますそのデータ数は少ないものになります。そのため、市販後に開発段階では想定できなかった状況が起こることも考えられます。

 

例えば、1万人に1人の割合で起こる重篤な副作用があったとすると、その症例を拾い上げるには1万症例が必要となります。臨床試験の段階ではせいぜい数百症例のため、発売後に多くの患者に使用されるようになってから予期せぬ副作用に出くわすことは十分に考えられます。

 

また、有効性においても時間経過につれて、より適切な使用方法や承認された適応症例以外の疾病に対しても効果があることが販売後になって明らかになる場合もあります。

 

したがって、医薬品のさらなる医学的価値を証明し、治療における位置づけを確立していくことが、医薬品のライフサイクルマネージメントと考えることができます。

 

 

医薬品ライフサイクルマネージメントの手段

医薬品のライフサイクルマネージメントにおいては、医薬品の最も適切な使用法を見つけ出し、有効性と安全性を証明していくことで価値を高めていくことが重要となります。そのための手段として、以下のものが考えられます。

 

①競合薬との比較試験、大規模臨床試験の実施
②安全性情報の蓄積
③適応症の拡大と剤形の追加

 

①競合薬との比較試験、大規模臨床試験の実施

新薬が販売承認を得るためには、既に市販されている標準治療薬と比較して優れているまたは、劣っていないということを証明することが求められています。

 

開発段階の第Ⅲ相臨床試験においては、標準治療薬と比較試験が実施されることが多く、ある程度の比較試験のデータが得られています。しかし、長期的な効果での比較試験や大規模な症例数による解析によるデータは販売の段階では得られていません。

 

もし、ある血圧の薬を服用すれば、脳卒中などの心血管イベントが絶対に起こらず、絶対に長生きできるというデータがあれば、その薬の価値はとても高いものとなります。しかし、このことを証明するためには長い年月をかけて調査する必要がありますし、さらに数人に対して効果があったという証明ではなく、何千もの人に対して効果があったというデータが必要となります。

 

このような長い年月や多くの症例数によって行われる臨床試験はメガトライアルともよばれ、生存率や疾患発症率抑制を証明するような臨床試験となります。メガトライアルのデータは非常に価値の高いものとなります。

 

そのため、メガトライアルのデータを付加することができれば、その薬剤の臨床的価値はとても高いものとなりますので、メガトライアルを実施してライフサイクルマネージメントとすることがあります。

 

 

②安全性情報の蓄積

薬剤は長い間使用を続けていかなくてはならないものが多く、長期使用においても安全性に問題がないと証明されることは、薬剤の価値を高めることになり、ライフサイクルマネージメントにおいても有用となります。

 

開発段階では数百症例において解析をおこなうため、数万例にひとりおこるような頻度の低い副作用については検出することが不可能です。その副作用が重篤なものであったり、死に至るものであるとすれば、その薬剤の使用については踏みとどまってしまいます。

 

薬剤の副作用に関するデータを付加していくことは薬剤の価値を高めていくことにつながっていきます。企業は市販後調査が義務付けられており、継続的に情報が蓄積されていきます。中には重篤な副作用が報告される場合もあり、情報を公表することで薬剤使用が行われなくなることもあります。

 

しかし、それを隠ぺいせずに情報を公表して、その情報を共有していくことが重要です。医薬品には、あらゆる情報を集積し、薬剤の安全な使用に向けて議論を行っていくという姿勢が常に求められていきます。

 

 

③適応症の拡大と剤形の追加

新薬の開発は対象疾患を限定して行われることが多く、製造承認後すぐに取得できる適応症は、部分的なことも少なくありません。例えば、ある糖尿病の治療薬は、承認直後は単剤使用しか認められていませんでしたが、その後の臨床試験の結果、他の糖尿病治療薬との併用で効果が認められ、併用療法についても認められるようになりました。

 

このように最初の適応症以外にも、適応症を加えていくことは適応拡大と呼ばれます。適応拡大はライフサイクルマネージメントにおいて重要なものとなります。

 

追加される適応症は、もともとの対象疾患と類似の治療領域において別の適応症を加えることが多くあります。他にも特殊な患者群である小児、高齢者、妊婦、肝障害、腎障害の患者などにおける適応拡大が追加的に行われることもあります。

 

一方、患者がより飲みやすいように工夫したり、服用回数を減らして飲み忘れや副作用発現を少なくするために、発売時の剤形に加えて、別の剤形を加えることも、ライフサイクルマネージメントにおいてよくとられる手段になります。

 

認知症治療薬のアリセプトは発売当初は錠剤のみでしたが、認知症患者が飲みやすいように口腔内崩壊錠、細粒、ドライシロップ剤、ゼリー剤などの剤形が追加され、現在では剤形が豊富なラインナップとなっています。

 

他にも、最近では利尿剤と降圧剤の配合剤や降圧剤とコレステロールを下げる薬剤の配合剤などの二種類の薬剤を混合して1剤とする配合剤が開発が活発に行われており、有効性や安全性、服用コンプライアンスを向上させることができるようになりました。

 

 

今後、後発品の使用が推奨される中で、患者側が医薬品をある程度選べるようになってきました。医薬品が売り上げを確保していくためには、他の薬剤にはないような価値を付加していかなければ、患者もしくは医療従事者に”選ばれる医薬品”となることはできないと考えられます。

 

このように製品の成長持続や特許切れなどによる売り上げの低下を防いだり、遅らせたりするための商業的戦略をライフサイクルマネージメントといいます。

 


 


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