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エンレスト(一般名:サクビトリルバルサルタン)

薬剤名の由来

Entrust(信頼できる薬剤)に由来(インタビューフォームより)

 

どんな薬か?

 アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(angiotensin receptor neprilysin inhibitor :ARNI)のサクビトリルバルサルタンは、アンジオテンシンⅡ受容体と、ナトリウム利尿ペプチドなどの分解酵素であるネプリライシンの両方を阻害する心不全薬治療薬です。
 標準治療を施行しても症状を有する左室駆出率40%未満の心不全(heart failure with reduced ejection fraction :HFrEF)の症例に使用されます。ACE阻害薬から本剤へ切り替えることにより、心不全による入院および死亡リスクを低減させることが示されています。

 

薬理作用

 サクビトリルバルサルタンは内服後、サクビトリルとバルサルタンへ速やかに分解され、さらにサクビトリルはエステラーゼにより加水分解され、活性代謝物であるsacubitrilatに変換されます。
sacubitrilatは多くの生理活性物質の分解を阻害します。ナトリウム利尿ペプチド〔心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)〕のほかに、ネプリライシンの基質であるアドレノメデュリン、サブスタンスP、ブラジキニン、アンジオテンシンⅡなどの分解を阻害します。これに伴いアンジオテンシンⅡが増強されますが、ARBのバルサルタンがその作用を抑制します。
 本剤はこれらの作用により、①血管拡張作用の増強、②副交感神経活性の増強、③ナトリウム利尿作用の増強、④有益な心筋リモデリング、⑤交感神経活性の抑制、⑥心筋の線維化、肥大の抑制、⑦不整脈発現リスクの抑制など多彩な薬理作用を発揮します。

 

副作用

 副作用として低血圧と腎障害の頻度が高く、副作用の早期発見のためには血圧および体重のセルフモニタリングが重要となります。またまれに生じる血管浮腫にも注意が必要です。

 

低血圧
 低血圧のチェックについては、毎日血圧を測定し、測定値を手帳などに記録して受診時に医師へ提示するのが良い方法です。

 

 低血圧に伴う症状の発現は身体の上下運動に関連することが多いため、寝た状態から起きるとき、座った状態から立ち上がるときはゆっくり動作するよう心掛ける必要があります。

 

 ただし、ACE阻害薬もしくはARB、β遮断薬およびミネラルコルチコイド受容体拮抗薬と同様に、心不全症例に対してARNI投与の目的は降圧のみではないため、血圧が多少低くても自己中断してはいけません。
 特にARNI投与で有効性が示されているHFrEFの症例は、比較的に血圧が低い傾向があるため、著明な尿量減少や体重増加を伴わなければ、心臓の高負荷を軽減することができると考えられています。

 

腎障害
1)正常血圧性腎障害
 ARNIを投与した際、通常であれば、ARBによる腎輸出細動脈の拡張に伴って糸球体内圧が過度に低下し、濾過能力に支障をきたさないよう調節能が働きますが、高齢者、高血圧症例、動脈硬化が著しい症例および腎機能低下例などでは、糸球体内圧の調節能が機能せずに尿量減少および血清クレアチニン値の上昇をきたすことがあります。

 

 そのため、ARNIを導入する際は基本的に低用量より開始し、尿量減少およびそれに伴う体重増加、そして血清クレアチニン値の上昇が継続しないように注意しなければなりません。

 

2)脱水による腎障害
 ナトリウム利尿ペプチドの分解抑制による利尿作用の増強により脱水となり、腎障害を起こすことがあります。このケースでは、尿量増加およびそれに伴う体重減少が生じます。

 

 これらの腎障害については、血圧および体重の推移からある程度推測が可能であるため、著しい変動が生じていないか確認する必要があります。早期受診を要する体重変動の目安は、1週間以内に2㎏以上増減した場合とするのが一般的です。

 

血管浮腫
 サクビトリルバルサルタンはネプリライシン阻害作用によってブラジキニンの分解を阻害するため血管透過性の増大に起因した血管浮腫の発現に注意する必要があります。
舌や咽頭に生じた場合は、呼吸困難を招く可能性があることから、すぐに受診が必要となります。
 また、ACE阻害薬と同様の機序から空咳を生じる可能性もあります。臨床試験の結果、エナラプリルとの比較では、空咳による投与中止率が高い傾向にありました。

 

 

服薬指導

 安全に服用を継続するためには血圧、体重および心不全症状のセルフモニタリングが継続できているか、サクビトリルバルサルタン内服開始後に著しい変動が生じていないかを確認します。生活に支障をきたす血圧低下を生じたとき、もしくは尿量の変動とともに著しい体重変動(±2㎏/週)を生じたとき注意が必要です。

 

 BNP値は、ARNI投与により分解が阻害されるため、心不全症状の改善の有無にかかわらず大部分の症例において上昇することが報告されています。検査結果を評価する際には、注意が必要です。

 

 サクビトリルバルサルタンは、50mg錠、100mg錠、200mg錠の3規格錠剤が販売されています。50mg錠についてはその他の規格(100mg錠、200mg錠)との生物学的同等性を担保する試験が実施されていないことから、1回100mg以上を投与する際は、50mg錠を使用しないよう添付文書に明記されています。

 

 また、血管浮腫の発現率が増加した経緯から、サクビトリルバルサルタンとACE阻害薬との併用は禁忌となっています。そのため、ACE阻害薬から本剤へ切り替える際は、36時間以上間隔をあけてサクビトリルバルサルタンを開始します。(中1日ACE阻害薬を休薬後、サクビトリルバルサルタンを投与開始する)

 

 クレアチニンクリアランス30mL/分未満の腎機能低下例では、sacubitrilatの半減期が腎機能正常例と比較して3倍に延長すると報告されています。(12時間→38.5時間)
この場合、承認用量よりも低用量の投与、もしくは1日1回投与も想定されます。

 

まとめ

  • 本剤は、アンジオテンシンⅡ受容体とナトリウム利尿ペプチドなどの分解酵素であるネプリライシンの両方を阻害する作用をもつ心不全薬治療薬です。
  • 副作用として低血圧と腎障害の頻度が高い。血管浮腫にも注意が必要。
  • 安全に使用するために、血圧、体重のセルフモニタリングが重要。

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