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エリキュース錠(一般名:アピキサバン)

名称の由来

“Elegant”と“Liquid”の合成語として命名され、“Equilibrium”(平衡)の意味を含む。

          

 

どんな薬か?

エリキュース錠は成分をアピキサバンとする血液凝固阻止薬です。血液凝固活性化第Ⅹ因子を可逆的に阻害することで効果を発現します。

血液凝固阻止薬は、簡単に言うと血液をサラサラにする薬ですが、この薬は、脳卒中脳塞栓などの血液が固まることで支障を来すおそれがある疾患や血液が固まりやすい状態にある疾患において、予防する意味合いで投与されています。

 

エリキュース錠の適応症は、「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制」となっています。つまり、非弁膜症性心房細動患者は血液が固まりやすく脳卒中や脳塞栓を起こしやすいのでエリキュース錠を服用して予防を行います。

 

日本循環器学会は、非弁膜症性心房細動を「リウマチ性僧帽弁疾患、人工弁および僧帽弁修復術の既往を有さない心房細動」と定義しています。つまり「リウマチ性でない僧帽弁疾患(主に変性性の僧帽弁閉鎖不全症)や、他の弁膜症に合併する心房細動は非弁膜症性心房細動」ということになります。

 

リウマチ性僧帽弁疾患とは、リウマチ熱が原因で起こるものを指し、通常「リウマチ」というと慢性関節リウマチのことを指しますが、リウマチ熱は別のものになります。

 

リウマチ熱は連鎖球菌が原因で起こり、8~12歳で多く発症します。リウマチ熱では心臓弁膜障害や心炎などを発生させ、長い年数をかけて心臓弁膜症を進行させていきます。

 

心房細動は、最も一般的な不整脈で、心房における電気信号の乱れによって心房がプルプルと震えて、本来の働きができなくなるために、頻脈を起こし、動悸や息切れを起こしやすくなる疾患です。

 

心房細動で最も注意しなければならないのは、脳卒中の発症リスクが上昇するという点です。心房細動の患者は、心房細動のない人と比較すると脳梗塞発症リスクが2~7倍に高まり、日本では、脳梗塞全体の約20%は心房細動が原因で発生しているという報告があります。

 

そのため、心房細動の治療において、血液凝固阻止薬を服用して血液が固まらないように維持していくことはとても重要であり、薬物治療の基本となります。

 

これまで、薬物治療薬として、ワルファリンが使用されていました。ワルファリンはこれまで長く使われてきましたが、個人差が大きく用量調節が難しい薬剤でした。

 

また、ビタミンKを多く含む納豆や緑黄色野菜生活に影響を受け、生活に制限を受けることや薬の飲み合わせにより影響を受けるのも多くあり、ワルファリンを服用するときに問題となっていました。

 

ここ最近、ワルファリンに代わる新規抗凝固薬が開発されてきました。ダビガトラン(プラザキサ®)、リバーロキサバン(イグザレルト®)そしてアピキサバン(エリキュース®)がこれに含まれます。

 

新規抗凝固薬の特徴として、投与開始からすぐに効果が発現する、食事制限を受けない(納豆が食べられる)、用量の微調整が不要(年齢や腎機能による影響がない限り、用量は同一となる)などがあり、ワルファリン療法における問題点を改善することができるようになっています。

 

 

ARISTOTLE(=Apixaban for Regulation in Stroke and Other Thromboembolic Events in Atrial Fibrillation)試験におけるエビデンス

本剤はARISTOTLE(アリストテレス)試験でエビデンスが得られています。アリストテレス試験とは、脳卒中のリスク因子を1つ以上有する非弁膜症性心房細動患者18,201例(日本人336例を含む40カ国、1,053施設:エリキュース群9,120例、ワルファリン群9,081例)を対象とした国際共同第Ⅲ相試験となっています。

 

つまり、日本人を含む全世界の施設で、非弁膜症性心房細動患者において、エリキュースとワルファリンの効果を比較した試験になります。

 

エリキュースはワルファリンに対して、脳卒中発症抑制(21%低下)、大出血リスクの減少(31%低下)、全死亡率の低下(11%低下)という結果が得られました。

 

また、薬の効果には人種差が生じることもありますので、本剤が日本人に対して本当に効果があるのか確認する必要性があります。

 

そこで、アリストテレス試験に登録された日本人症例336例の解析したところ、脳卒中発症、大出血リスク、全死亡率においてアリストテレス試験と一貫した傾向が認められ、エリキュースが日本人にも効果があるということを示されました。

 

 

予想される副作用は?

本剤の副作用として出血傾向が高くなるということがあります。

 

非弁膜症性心房細動患者を対象とした国際共同試験の結果において、鼻出血27.8%(2,524/9,088)、血尿2.6%(234/9,088)、挫傷1.7%(151/9,088)、血腫1.4%(129/9,088)、貧血1.1%(103/9,088)が報告されています。

 

日本人症例においては、鼻出血6.9%(11/160)、皮下出血5.0%(8/160)、結膜出血2.5%(4/160)、挫傷1.9%(3/160)、皮下血腫1.9%(3/160)、便潜血1.9%(3/160)、血尿1.9%(3/160)が報告されており、出血傾向が出やすくなっています。

 

兆候として青あざができたり、歯茎や鼻血が多くなるようでしたら、要注意です。

 

また、エリキュースの用法は1日2回経口投与し、年齢(80歳以上)、体重(60kg以下)、腎機能(血清クレアチニン1.5㎎/dL以上)に応じて減量することになっています。

 

エリキュースは半減期が短い薬剤のため、飲み忘れが続くと血中濃度が大きく低下することが予測され、その結果として脳卒中や脳塞栓の発現リスクも高くなってしまいます。

 

服用を忘れた場合は、気づいたときにすぐに1回量を服用し、その後は通常通り1日2回服用するようにします。1回に2回量をまとめて飲んではいけません。エリキュースは継続的に服用を行っていくことが重要な薬剤になります。

 

 

その他の注意点

本剤はワルファリンからの切り替えのタイミングに注意が必要です。血液の固まりにくさを確認する指標としてPT-INRがあります。

 

実際にPT-INRは血液凝固阻止薬が効いているかの指標とされていて、PT-INR =2~3程度となるようにコントロールされています。PT-INRが大きいほど血液凝固阻止薬が強く効いていると解釈します。

 

ワルファリンから本剤へ切り替える際は、ワルファリンを中止した後、PT-INRを2未満となったことを確認してから投与を開始することになっています。

 

反対に、本剤からワルファリンへ切り替える際は、PT-INRが治療域の下限を超えるまでは、本剤とワルファリンを併用することになっています。

 

薬剤変更の際は以上の点に注意しなければなりません。薬剤師としては、エリキュースが処方された際の重要なチェックポイントとなりますので、見逃してはいけません。


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