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アデムパス錠(一般名:リオシグアト)

どんな薬か?

アデムパス錠(一般名:リオシグアト)は、肺高血圧症(PH)の一種である慢性血栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)に適応がある可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激作用をもつ経口治療薬です。

 

CTEPHは進行性の疾病で、息切れやめまい、失神などで日常生活に影響を及ぼし、場合によっては重症化して死に至ることもあります。

 

CTEPH治療法は、肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)という外科手術ですが、PEA後に持続または再発するケースが35%あったり、CTEPH患者の20~40%においては手術が不能であるケースがあります。

 

本剤はCTEPHに初めて適応が認められた薬剤であり、適応は「外科的治療不適応又は外科的治療後に残存・再発したCTEPH」となっています。本剤によって、CTEPH治療が新しい選択肢を増やすことができるようになりました。

 

本剤の有効成分であるリオシグアトの薬理作用のターゲットとなるのは、血管細胞や血小板中に存在するsGCです。リオシグアトはsGCを活性化して細胞内cGMPの産生を促します。cGMPは肺血管拡張、増殖、炎症、繊維化を調節する因子と考えられています。

 

CTEPHを治療するためには、血管を拡張させる必要があります。cGMPは平滑筋弛緩作用があり、細胞内のcGMP濃度が増加することで血管拡張が起こります。cGMP はsGCによって活性化されることで産生が促進され、sGC は一酸化窒素(NO)により活性化される仕組みになっています。

 

本剤はsGCを刺激し、細胞内のcGMPを増加させますが、本剤はNOによって活性化されなくても、直接的にsGCを刺激してcGMPを産生することができます。この点はPAHにおいて非常に重要な意味を持ちます。

 

これまで、PHの治療薬であるPDE5阻害薬は、cGMPが分解を抑制して血管拡張作用を示しますが、NOが存在していないと効果が得られませんでした。PHの患者は、NOが低下しているという報告があり、PHの患者に薬剤投与しても、NOが十分に存在していないために、効果が得られないと考えられるということが多くありました。

 

しかし、本剤はNOが活性化がなくてももしくは存在しなくても、sGCを直接刺激することができるとされていて、PH患者において十分な効果を発揮することが期待されています。

 

このように本剤はsGCの内因性NOに対する感受性を高める作用NO非依存的に直接sGCを刺激する作用の2つの機序からcGMPの産生を促進して、肺動脈を拡張させることができます。

 

 

慢性血栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)とは?

私たちの血液の循環は、心臓から肺で酸素と二酸化炭素を交換し、酸素を多く含む血液が心臓へ戻ってきます。そして、再び心臓から全身へ血液が送り出されて、酸素が供給され、二酸化炭素を多く含む血液が心臓へ戻ってきます。このように心臓→肺→心臓の循環を肺循環といい、心臓→全身→心臓の循環を体循環といいます。

 

肺高血圧症(PH)とは、心臓から肺へ血液を送る血管(肺動脈)の圧が高くなる状態をいい、この状態が起こる原因として、血栓が肺動脈をふさいだ状態がしばらく続いて肺高血圧症を起こすものCTEPHといいます。

 

何らかの原因で血管の中に血栓ができることがあります。その血栓が血管からはがれて、血流にのっていき、別の血管を塞ぐ状態を塞栓といいます。この血栓は自然に溶けることもありますが、何度も詰まりを繰り返していくと固くなり、血管内に残ったままの状態になりますこの状態を器質化といいます。

 

CTEPHは、器質化した血栓が肺動脈を慢性的に閉塞し、肺血管抵抗が上昇する疾患で、6ヶ月以上抗凝固薬等による治療を行っても肺血流分布や血行動態が変化しない病態と定義されています。

 

健常人において、肺動脈平均圧は20mmHgを超えることはありませんが、CTEPHでは25mmHg以上に上昇してしまいます。

 

CTEPHは全身の酸素不足、血液不足を起こしてしまうために、息切れが起こりやすくなります。階段を上ったり重いものを持ったりするなどの日常の動作で息切れや息苦しさを感じるようになります。また、突然の呼吸困難や胸の痛み、脚の腫れや痛みが出ることもあります。

 

症状がさらに進行していくと、失神することがあり大変危険です。また、肺から出血すると血痰や発熱が見られ、心臓の右心室の働きが落ちると、脚のむくみや体重増加、お腹に水がたまるといった症状がみられるようになります。

 

 

有効性は?

リオシグアトのCTEPHに対する効果を確認するために、CHEST-1試験と称する国際共同第Ⅲ相試験が実施されました。リオシグアトを16週間服用後、プラセボ群との比較を行い、主要評価項目として6分間歩行距離テストを行いました。

 

6分間歩行距離テストは、6分間にどれだけ長い距離を歩けるかというテストで心機能評価などを行う際に実施されるテストです。CTEPHでは通常よりも歩行距離が短くなりますので、リオシグアトを服用することでどのくらい歩行距離が変化したかを確認します。

 

この試験では治療前の6分間歩行距離が150~450mの患者を対象としています。時速に換算すると時速1.5~4.5kmになります。通常歩行速度は時速4kmと言われていますので、歩く速度として、直感的に遅いと感じる速度ではないかと考えられます。

 

結果はプラセボ群と比較し、6分間歩行距離は有意に改善していました。また、副次評価項目であった肺血管抵抗、肺動脈平均圧、心拍出量、NT-proBNPにおいてもプラセボ群と比較して有意に改善していました。

 

 

予想される副作用は?

国際共同第Ⅲ相試験の結果、本剤が投与された490例(日本人30例を含む)中304例(62.0%)に副作用が認められました。

 

主な副作用は頭痛93例(19.0%)、消化不良72例(14.7%)、浮動性めまい65例(13.3%)、低血圧43例(8.8%)等が報告されています。

 

重大な副作用として、喀血(0.2%)、肺出血(頻度不明)がありました。咳と共に血を吐いたり、血が混じった痰が出るときは、ただちに服用を中止して医療機関を受診する必要があります。

 

 

その他の注意点

本剤は低用量から開始して、徐々に薬の量を増やしていく数週間の用量調節期と用量決定後に服用を継続していく用量維持期があります。

 

用量調節期では、数週間をかけて症状を確認しながら最も適した1回量を決定していきます。1回量は治療の進行や症状によって異なるため、患者毎に用量は異なります。

 

本剤は0.5mg、1.0mg、2.5mg錠の3種類のラインナップがあります。薬剤の形状や色などを確認し、誤薬がないように注意しなければなりません。

 

 0.5mg錠    1.0mg錠    2.5mg錠

 

また、用量変更になることで副作用が起こりやすくなります。前述のように本剤では、めまい立ちくらみなどが起こりやすいため、可能な限り血圧を測定して低血圧症状が起きていないか確認すると安全です。

 

1回に服用する量が決定すると、次は用量維持期に移ります。用量維持期では、決められた用法である1日3回と維持量を守り、服用を継続していかなくてはなりません。もし飲み忘れても1度に2回分を服用してはいけません。

 

維持期であっても、体調などによって低血圧症状を起こすことがありますので、血圧や症状の変化に確認が必要です。

 

【用法・用量】

用量調節期
通常、成人にはリオシグアトとして1回1.0mg1日3回経口投与から開始する。

 

2週間継続して収縮期血圧が95mmHg以上で低血圧症状を示さない場合には、2週間間隔で1回用量を0.5mgずつ増量するが、最高用量は1回2.5mg1日3回までとする。

 

収縮期血圧が95mmHg未満でも低血圧症状を示さない場合は、現行の用量を維持するが、低血圧症状を示す場合には、1回用量を0.5mgずつ増量する。

用量維持期
用量調節期に決定した用量を維持する。

 

用量維持期においても、最高用量は1回2.5mg1日3回までとし、低血圧症状を示すなど、忍容性がない場合には、1回用量を0.5mg減量する。

 


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