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感染性胃腸炎

感染性胃腸炎は、嘔吐・下痢・腹痛を主症状として、毎年11月から翌年の5月頃にかけて、発生します。ロタウイルスノロウイルスのようなウイルスを原因とするウイルス性胃腸炎や病原性大腸菌O-157のような細菌を原因とするような細菌性胃腸炎がありますが、ウイルス性胃腸炎が多く、その中でロタウイルス胃腸炎とノロウイルス胃腸炎が大半を占めています。

 

ロタウイルス胃腸炎

ロタウイルス胃腸炎は3~4月をピークとして、年末から翌年5月頃にかけて発生します。5歳未満の患者のうち3ヶ月から3歳未満までが9割近くを占めます。受診する患者の傾向も乳幼児がほとんどで、保育園等で感染したパターンが多かったように思います。乳幼児がロタウイルス胃腸炎にかかると重症下痢症に至る危険性があることから、予防のためにロタウイルスワクチンを接種されることもあります。

 

潜伏期間は24~72時間で、嘔吐、下痢、発熱が主症状です。ロタウイルスに感染すると腸管の粘膜の表面が破壊されて、水分をうまく吸収できなくなってしまい、水様性の下痢症状が起こします。白色の水様便が出ることがあり、お米のとぎ汁のような白色便と表現されることがありますが、必ずしも全ての患者に発現するわけではありません。

 

ロタウイルスは経口感染します。急性期の便中には1011個も大量のウイルス粒子が排泄され、このうち10個程度を取り込むだけで感染が成立するとされており、患者の便中のウイルスがなんらかの形で、口から入ってしまうと感染してしまいます。感染力が強いため、発症に至らないまでもほぼ100%の小児が感染すると言われていますので、発症した場合は早めに対策をとり、重症化させないことが重要です。成人の場合は感染しても発症しないか軽症の場合が多いです。

 

 

ノロウイルス胃腸炎

 

ノロウイルス胃腸炎はロタウイルスよりも流行が早く、11月頃から増加し1月頃にピークとなります。潜伏期間は24~48時間で、突然の嘔吐、下痢、腹痛などを主症状としています。ノロウイルスも同様の経口感染し、汚染された食品や水を介しても伝播します。さらに感染者の唾液や嘔吐物が乾燥し、塵埃化することによって空気感染することもあります。

 

ノロウイルスに汚染された食品を摂取したことによって胃腸炎を集団発症したという出来事を耳にします。給食で出されたパンが原因で食中毒を発生した事件は記憶に新しく、ノロウイルスはカキなどの二枚貝に蓄積されやすいため、カキの生食による食中毒が多く報告されています。保育園や幼稚園など集団生活を行っている場所では、ヒトからヒトへ感染して一気に感染が拡大してしまいます。また、医療関連施設では高齢者が集団的に施設内感染することもあります。高齢者が感染すると基礎疾患が悪化したり、嘔吐物の誤嚥による窒息の危険性があるため、重症または死亡に至ることがあります。このようにノロウイルスはロタウイルスとは違い、乳幼児に感染が限られるのではなく、幅広い年齢層で発生します。

 

治療

 

ロタウイルスやノロウイルスに対する抗ウイルス薬はありませんので、下痢や嘔吐の合併症の対症療法が基本となります。最も重要な合併症は脱水症状で、失われた水分や電解質を補充することが基本となります。ロタウイルスもノロウイルスも症状はほとんど同じような症状であるため、治療方針は同じです。

 

水分補給において、電解質(ナトリウム、カリウム)とグルコースから構成される経口補液(oral rehydration solution:ORS)が有効です。乳幼児にはスプーンやスポイトを使ってこまめに摂取させます。スポーツ飲料等は糖分が多く、電解質濃度が少ないためORSの方が適しています。重症の場合や誤嚥の可能性のある高齢者の場合は、輸液により治療します。

 

下痢症状には乳酸菌製剤などの整腸剤を使用します。ウイルスの排出が遅れると治癒するまで時間がかかったり、イレウス(腸閉塞)の原因となることがあるため、下痢止めの使用は推奨されていません。下痢症状がひどい場合は、ロペミン細粒を使用することがあります。嘔吐がひどい場合は、吐き気止めにナウゼリン坐剤を使用します。

 

 

予防法

いずれのウイルスも経口感染するため、口からの病原体が入ることを防ぐことが有力な予防法となります。患者の便や嘔吐物を処理する際は、ガウンや手袋を着用して手や体へ病原体が付着するのを防ぎます。日常生活の中でも手洗いやうがいを行うことが基本となります。消毒用アルコール消毒はどちらのウイルスにも効果がなく、次亜塩素酸ナトリウム液で消毒を行う必要があります。

 

ロタウイルス胃腸炎は乳児が感染すると重症化することがあるため、ロタウイルスワクチンが任意接種を行うことができます。現在日本で承認されているワクチンは、ロタリックスロタテックがあり、いずれもの弱毒生ワクチンです。ロタウイルスワクチンの接種を行うことで重症例を9割程度抑制すると報告されており、ワクチンによる免疫効果は2~3年間持続します。

 

ワクチン接種のスケジュール>

ロタリックス
生後6週から2回経口摂取する。最低4週間の間隔をあけて、生後24週までに摂取を完了する。
 

 

ロタテック
生後6週から3回経口摂取する。最低4週間の間隔をあけて、生後32週までに摂取を完了する。
 

 

食物から感染することが多いノロウイルスは熱を通すことによって感染のリスクを大幅に減らすことができます。流行期には加熱するなど調理法を工夫したり、感染のリスクの高い食物を避けることが重要です。現在のところノロウイルスに対するワクチンはありません。

 

 

消毒薬について

前述のようにロタウイルスもノロウイルスも消毒用アルコールは効果がありません。消毒には次亜塩素酸ナトリウムを使用します。次亜塩素酸ナトリウムはハイターやミルトンに含まれていて、プールや漂白剤においがします。医療器具やリネンの消毒または哺乳瓶の殺菌などに使用されていて、手指の消毒にも用いられることがあります。頻繁に使用すると手荒れを起こしたり、金属によっては腐食させることがあります。

 

 

ウエルセプトについて

次亜塩素酸ナトリウムは、手荒れなどのためにアルコール消毒のように頻繁に使用するのが難しいです。そこで消毒用エタノールに有機酸(乳酸・クエン酸)と亜鉛を添加してエタノールの効果を増強し、ロタウイルスやノロウイルスにも効果を示す消毒薬が開発されました。ウエルセプトと言い、幅広い微生物に効果を示すことと保湿剤等を添加しているので手荒れにも配慮された消毒剤となっています。次亜塩素酸ナトリウムの代わりにウエルセプトを使用することでロタウイルスやノロウイルスの感染予防に役立てることができます。

 


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