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統合失調症の治療薬と副作用

抗精神病薬の薬理作用と副作用の関係

精神科領域で使用される薬剤をまとめて抗精神病薬(antipsychotics)と呼んでいますが、多くが統合失調症に使用される薬剤のことを指します。
抗精神病薬はドパミンD2受容体遮断による抗精神病作用(陽性症状に対する作用)は、ほぼ全ての抗精神病薬に共通する作用ですが、同時に以下のような受容体の遮断作用もあわせもっています。抗精神病薬は、それぞれの受容体遮断作用の有無や強度が、効果や副作用の違いに関連しています。

 

①ドパミンD2遮断作用
効果:陽性症状抑制
副作用:錐体外路症状、高プロラクチン血症、悪性症候群

 

②セロトニン5HT2受容体遮断作用
効果:陰性症状抑制、認知機能障害改善、錐体外路症状の軽減(セロトニン神経による中脳皮質系・黒質線条体系の抑制解除のため)
副作用:体重増加、高血糖

 

③ヒスタミンH1受容体遮断作用
効果:鎮静作用
副作用:体重増加、高血糖、過鎮静、眠気

 

④アドレナリンα1受容体遮断作用
効果:鎮静作用
副作用:起立性低血圧、めまい、過鎮静、眠気、持続勃起症

 

⑤アセチルコリンM受容体遮断作用
副作用:自律神経症状(口渇、鼻閉、便秘、排尿障害など)、認知機能障害

 

 

抗精神病薬の種類

抗精神病薬は、大きく2つに区分されます。これまで長く使用されてきたいわゆる使用経験の長い薬を第一世代とし、開発時期が新しく使用経験がまだ少ない薬剤を第二世代として分別しています。また、第一世代を従来使用されてたとして従来型(定型)抗精神薬、第二世代を新規(非定型)抗精神病薬と呼ぶこともあります。

 

定型抗精神病薬はドパミンD2受容体遮断作用が効果の主体であって、効果の強弱によって高力価薬と低力価薬に分けられます。定型抗精神病薬では、統合失調症の陽性症状の持続的なコントロールが可能となっていますが、陰性症状に対する効果は少なく、錐体外路症状や高プロラクチン血症が副作用として問題となることがあります。

 

定型抗精神病薬において、治療に至適なD2受容体占拠率は65~80%であり、65%未満では効果が不十分で、80%以上では錐体外路症状などのD2受容体遮断による副作用が問題となると考えられています。

 

一方、定型抗精神病薬の副作用による問題を解決するために非定型抗精神病薬が開発されました。現在では非定型抗精神病薬が第一選択の治療薬となっています。陰性症状や認知機能障害にはある程度効果があると言われていますが、未だ不十分な点もあるので、新たな作用機序をもつ薬剤開発が進められています。

 

従来型(定型)抗精神病薬のまとめ

・ ドパミンD2受容体遮断作用が強力。
・ 中脳辺縁系の活動を抑制し、陽性症状に効く。
・ 陰性症状、認知機能障害にはあまり効果がなく、むしろ悪化させる場合もある。
・ 強力なD2受容体遮断による錐体外路症状、高プロラクチン血症が出現しやすく、忍容性が低い。

 

新規(非定型)抗精神病薬のまとめ

・ D2受容体遮断作用はそれほど強くない。
・ D2受容体遮断以外に強い5HT2受容体遮断作用など薬剤により様々な薬理作用を示す。
・ 中脳辺縁系、中脳皮質系の活動を正常化して、陽性症状に加え、陰性症状、認知機能障害にもある程度効果がある。
・ 再発予防効果が高い。
・ 錐体外路症状、高プロラクチン血症は少なく忍容性が高い。
・ 高血糖、体重増加が起こりやすい。

 

 

 

抗精神病薬による主な副作用

錐体外路症状(EPS:extrapyramidal symptoms)

抗精神病薬で問題となる代表的な副作用の1つであり、患者のQOLを大きく損なう原因となります。EPSは、黒質線条体系のドパミン神経系が抑制されるために起こると考えられています。

 

高力価(D2受容体遮断作用の強い)の従来型抗精神病薬では生じやすく、新規抗精神病薬では一般に少ないと考えられています。新規抗精神病薬でも、高用量ではEPSを生じますが、特にセロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)では比較的EPSを生じやすいとされています。また、アリピプラゾールはパーキンソニズムは少ないが、アカシジアは生じやすいとされています。

 

投与開始後早期からみられるもの

パーキンソニズム(無動、安静時振戦、筋強直、姿勢反射障害)
アカシジア(じっとしていられず動き回る)
急性ジストニア(異常な筋緊張により奇妙な姿勢になる)

 

<対応>

・ 抗精神病薬の減量・変更
・ 投与早期からみられるEPSには抗コリン薬が有効ですが、抗コリン薬は認知機能障害を増悪させるおそれもあるため、予防的投与は基本的に推奨されません。
・ パーキンソニズムを伴わないアカシジアにはβ受容体遮断薬ベンゾジアゼピン系薬が有効とされています。

 

 

長期投与時にみられるもの

遅発性ジスキネジア(咀嚼様運動、舌の突出・捻転、顔をしかめる)

 

<対応>

・ 遅発性ジスキネジアは不可逆的であることも多く、予防が最重要となります。
・ 新規抗精神病薬は、従来型抗精神病薬に比べ遅発性ジスキネジアのリスクが低いと考えられています。

 

 

高プロラクチン血症

漏斗下垂体系のドパミン神経抑制によって、下垂体のプロラクチン分泌抑制が弱まってしまうためにプロラクチンが過剰に分泌されてしまいます。この状態を高プロラクチン血症といい、男女ともに性機能障害の原因となります。

 

高プロラクチン血症は妊娠している状態に近い状態になるので、乳房が張ったような状態になったり、乳汁が出てきたりすることがあり、女性においては月経異常や無月経状態を起こすことがあります。長期的にみると骨代謝異常や乳がんや子宮体がんのリスクを高める可能性もあるため、薬剤の減量や中止などの必要性があります。

 

過鎮静・眠気

抗精神病薬は、ヒスタミンH1受容体遮断作用とα1受容体遮断作用により鎮静効果や不眠の改善効果を示します。適度な使用量では問題ありませんが、薬が効き過ぎると眠気や頭がボーっとするといった過鎮静作用を示します。

 

抗精神病薬を服用している患者からの訴えに日中の眠気記憶力の低下がよくあります。この場合、薬剤を減量もしくは変更する、投与時間を寝る前のみだけにするなどで対応できることがあります。一方、耐性が形成されることもあるため、眠気は服用を続けているうちに改善してくるということもあります。

 

自律神経症状

抗精神病薬のもつアドレナリンα1受容体遮断作用とアセチルコリンM受容体遮断作用によって、身体に不快な症状が起こります。不快な症状が続くと服薬を続けたくないと考えるようになり、薬物治療継続の上で大きな障壁となることがあるため、薬剤の中止や減量などで対応しなければならない副作用です。

 

アドレナリンα1受容体遮断作用により血管拡張が起こり、立ちくらみやめまいといった起立性低血圧低血圧を起こすことがあります。また、アセチルコリン受容体遮断作用により抗コリン作用とよばれる眼圧上昇、口渇、鼻閉、便秘、排尿障害などの身体症状が生じることがあります。

 

 

このように抗精神病薬は、様々な副作用が起こる可能性が高く、服用期間も多くの場合で長期に渡るため、定期的な治療効果と副作用の確認が重要となります。場合によっては、副作用が発現していても治療効果を優先した方が良いこともあり、副作用を我慢しながら服用することもあります。したがって、抗精神病薬は自己判断をせず、医師と確認しながら継続服用していく姿勢が重要となります。

 


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