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睡眠薬の選び方

不眠症に使用される睡眠薬はベンゾジアゼピン系(BZ系)が中心となっていますが、どの睡眠薬を選択するのかは不眠症のタイプと睡眠薬の持続作用時間によって使い分けるということが基本的な考え方となります。

 

不眠症は、十分な睡眠がとれていない状態が続くために日中の強い眠気や集中力の低下、疲労感などにより日常生活に支障をきたすことを指します。

 

なぜ眠れないのか?どのような不眠状態なのか?は人それぞれですが、一般的に不眠症は寝つきが悪くすぐに眠ることができないタイプの入眠障害型と途中で目が覚めたり、早く目が覚めたりするために長く眠ることができないタイプの睡眠維持障害型に分けられます。

 

睡眠薬を選択する際、入眠障害型であれば、寝つきが改善できれば、十分な睡眠を確保できると考えられますので、睡眠薬の効果がすぐに得られて、体からすぐに消失してしまうタイプが望ましいことになります。催眠効果がいかに強力であったとしても、体の中にいつまでも残ってしまう場合は副作用のリスクが高くなります。

 

一方、睡眠維持障害型であれば、長く眠れることにより睡眠状況を改善できると考えられるため、睡眠薬の効果が長く持続するものが望ましいということになります。したがって、睡眠薬を選択する際には、睡眠状況をどのように改善すれば十分な睡眠が確保できるかという考え方が重要になります。

 

BZ系睡眠薬は作用時間の長さにより、超短時間作用型、短時間作用型、中間作用型、長時間作用型の4つに分類されます。作用時間が短いタイプの睡眠薬は、主として入眠障害型の不眠症に使用され、作用時間が長いタイプの睡眠薬は睡眠維持障害型の不眠症に使用されます。しかしながら、効果の発現には個人差が多くありますので、実際に使用して効果が感じられなかったり、予想よりもよく効いたと感じることは多々あります。

 

また、不眠症は心の状態と密接につながっているため、眠れない原因を究明し、根本的な原因を改善することが不眠を効果的に改善することにつながっていきます。

 

例えば、不安な気持ちが強くて眠れなければ、睡眠薬を使うよりも安定剤を使う方が眠れるようになります。また、夜間に何回もトイレに行くために、再び眠れなくて困るということであれば、睡眠薬よりも頻尿症状を改善する治療薬の方が不眠症を改善できます。

 

要は不眠の原因となっている症状に合わせた治療薬の正しい選択と正しい診断が必要となります。慢性的な不眠症は、うつ病、高血圧、糖尿病、メタボリックシンドローム、肥満などを招きやすくなることが指摘されていますので、不眠症は正しい知識をもって早期に改善する必要があります。

 

超短時間作用型

一般名

商品名

消失半減期(時間)

ゾルピデム マイスリ― (非BZ系)

2

トリアゾラム ハルシオン

2~4

ゾピクロン アモバン (非BZ系)

4

エスゾピクロン ルネスタ (非BZ系)

5

 

短時間作用型

一般名

商品名

消失半減期(時間)

エチゾラム デパス

6

ブロチゾラム レンドルミン

7

リルマザホン リスミー

10

ロルメタゼパム エバミール、ロラメット

10

 

中間作用型

一般名

商品名

消失半減期(時間)

ニメタゼパム エリミン

21

フルニトラゼパム ロヒプノール、サイレース

24

エスタゾラム ユーロジン

24

ニトラゼパム ベンザリン、ネルボン

28

 

長時間作用型

一般名

商品名

消失半減期(時間)

クアゼパム ドラール

36

フルラゼパム ダルメート、ベノジール

65

ハロキサゾラム ソメリン

85

 

 

BZ系睡眠薬の副作用

睡眠薬のイメージとして、飲み出すと止められなくなる、服用すると死んでしまうしまうかもしれないなどという主に負のイメージを持っていることが多いように感じられます。このような原因となってしまったのは、BZ系睡眠薬が登場するよりも以前に使用されていた古典的なバルビツール酸系睡眠薬のイメージが強く残ってしまっているためと考えられます。

 

確かにバルビツール酸系睡眠薬は、過量に服用すると意識障害、昏睡、運動失調、呼吸抑制を発現し、死に至ることがあったり、急な服薬中断により離脱症状を来すこともありました。今では、睡眠薬としてバルビツール酸系睡眠薬が使用されることはほとんどなく、てんかんの治療などに使用されています。BZ系睡眠薬はバルビツール酸系睡眠薬と比較すると安全に使用できる薬剤と考えられています。

 

しかしながら、BZ系睡眠薬は眠気やふらつきなどの他に以下のような副作用が起こり得ることが指摘されています。

前向性健忘(記憶障害)

服薬から入眠までの出来事や睡眠中に起こされたこと、翌朝目覚めてからの出来事に対する記憶があやふやになること。

 

持越し効果

睡眠薬の効果が翌朝以降も残り、日中の眠気、ふらつき、頭痛、倦怠感などの症状が発現すること。

 

反跳性不眠

急な服薬中止により、以前よりもより強い不眠症状を発現すること。

 

離脱症状

急な服用中止により、不安感や焦燥感、手足の震え、せん妄、発汗、痙攣などの症状が発現すること。

 

早期覚醒・日中不安

薬効が切れる早期覚醒時や日中に不安が強くなること。

 

筋弛緩作用

睡眠薬の中には、筋肉を弛緩させる作用があるものがあり、これにより筋肉に力が入りにくくなること。ふらつきや転倒を起こしやすくなる。

 

高齢者の場合、睡眠薬の副作用が出やすく、ふらつきや転倒などによる骨折のリスクも高くなるため注意が必要です。転倒は骨折以外に、脳挫傷など打撲部位によっては死に至ることがあったり、骨折入院したことから嚥下能力が低下し、誤嚥性肺炎を起こしたりと転倒から起こりうるリスクは無数に存在します。

 

さらに高齢者は長期に渡って使用していることも多いため、日頃からの副作用が起こっていないか確認が重要となってきます。

 

また、BZ系睡眠薬はアルコールの摂取に注意しなければなりません。BZ系睡眠薬は肝臓にあるチトクロームP450という酵素によって代謝を受け、アルコールも同様の酵素によって代謝を受けます。

 

そのため、アルコールと同時に服用すると、BZ系睡眠薬の効果が強く発現してしまうために、前向性健忘などのリスクが増してしまいます。したがって、BZ系睡眠薬とアルコールを併用してはいけません。お酒を飲む習慣がなくても、ねる前に薬用養命酒を服用する習慣がある方は注意が必要となります。

 

 

非BZ系睡眠薬

BZ系睡眠薬はBZ受容体に作用して効果を発現します。BZ受容体に関する研究により、BZ受容体はω1受容体とω2受容体が存在することが分かり、ω2受容体に作用する効果が強いと筋弛緩作用運動失調を来す可能性があることが判明しました。

 

したがって、ω2受容体にはあまり作用せず、ω1受容体に主に作用すれば、筋弛緩作用などの副作用を起こしにくく、催眠効果のみを得ることができます。

 

このようにして開発されたのが、ゾルピデム酒石酸塩(マイスリー)ゾピクロン(アモバン)になります。これらはBZ系とは異なる構造式をしているため、非BZ系薬剤と言われます。

 

これらはω1受容体選択性が高く、ω2受容体への親和性が低いため、筋弛緩作用や運動失調の懸念が少ないとされています。ただし、作用時間が短い超短時間作用型に分類されるため、中途覚醒、早期覚醒を改善しきれない可能性があります。マイスリーやアモバンは入眠障害に多く使用されます。

 

ちなみにアモバンは服用した翌朝に口に苦みが出るのが特徴です。これを改善し、さらに作用時間を長くしたのがエスゾピクロン(ルネスタ)であり、アモバンの光学異性体を製剤化したものになります。

 

ラメルテオン(ロゼレム)は、視交叉上核のメラトニンMT1/MT2受容体を刺激することにより、催眠効果を示す薬剤です。我々は朝明るくなると起きて、夜暗くなると眠くなるという本来の睡眠リズムを有しています。これを概日リズムといい、メラトニンが調節をしています。

 

高齢者の不眠症状や若年者の睡眠障害には概日リズムの乱れが関与しているといわれており、ロゼレムによりこのリズムを改善することができます。BZ受容体を介さないため、高い安全性が期待されますが、BZ系睡眠薬や他の非BZ系睡眠薬に比べて効果はやや弱いものとなります。


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