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ホクナリンテープ(一般名:ツロブテロール)

名前の由来

陸製薬(株)(現アボットジャパン㈱)において新規に合成・開発された交感神経アドレナリンβ2受容体刺激薬であることに由来。

 

 

どんな薬か?

ホクナリンテープは昭和56年9月より販売された世界初の長時間作用性経皮吸収型気管支拡張剤で、小児科や内科をはじめとして、使用実績のある貼付剤です。現在では多く企業からジェネリック医薬品が開発され、販売されています。

 

ホクナリンテープは気管支を拡張して、呼吸を楽にする効果があります。気管支喘息、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫の治療に使用されています。本剤の特長として、①1日1回の貼付で24時間効果が持続する、②皮膚状態の影響を受けにくい、③剤形が薄いなどがあります。

 

喘息患者のモーニングディップを抑える
喘息患者ではモーニングディップという早朝の呼吸機能の低下が起こることがあります。これが起きやすい時間帯は午前4時頃とされており、明け方に喘息の発作で発現しやすいのはこの現象のためと考えられています。

 

そのため、喘息を起こしやすいモーニングディップを抑制するためには、モーニングディップが起こりやすい時間帯に効果を発現する治療薬が理想と考えられます。

 

モーニングディップが起こる原因は生体リズムにあると考えられています。生体リズムに合わせて発作や病気が発生しやすい時間帯に必要な量を送達するという治療方法であれば、治療を効率的に行うことができます。

 

このような治療法を時間薬物治療(Chronotherapy)といいます。喘息の治療であれば、安定した濃度で長時間作用する薬剤であることが理想的な薬剤と考えることができます。

 

本剤は結晶レジボアシステムという技術が採用され、喘息治療薬として開発されました。この技術によって、本剤は長時間に渡って有効成分を一定放出速度に保つことができ、安定した血中濃度を維持することが可能となりました。

 

結晶レジボアシステム
結晶レジボアシステムとは、ホクナリンテープは膏体支持体の2層構造でできていて、膏体中にはツロブテロールの結晶と分子が含まれています。皮膚に吸収されるのはツロブテロール分子で、膏体中の分子が皮膚に吸収されて減少すると膏体中の結晶が溶解して膏体中に分子を補給します。

 

このようにして膏体中のツロブテロール分子の濃度を一定に保つことができます。つまり、ツロブテロール結晶が分子の貯蔵庫の役割を果たすことで、薬物放出量を常に一定に保つことができる設計となっています。

 

 

さらに膏体中に溶解したツロブテロール分子と均一に分散したツロブテロール結晶を過飽和状態で共存しています。そのため、本剤の膏体層の薄層化(20μm)でき、製剤全体の薄型化が可能となりました。

 

したがって、本剤は長時間安定した薬物血中濃度を維持することが可能であるため、寝る前に貼付することでモーニングディップに対応できる薬剤であると考えることができます。

 

皮膚状態の影響をうけにくい
本来の経皮吸収剤における薬物の生体内への移行は生体側の皮膚の状態により変化すると考えられています。一般的に皮膚が乾燥すると皮膚のバリア機能が低下するため、薬物の透過性は亢進すると考えられています。

 

例えば、アトピー性皮膚炎などでは、皮膚のバリア機能が低下しているため、短時間で高濃度の薬剤が吸収されてしまうおそれがあります。

 

しかし、本剤の結晶レジボアシステムでは、薬剤の吸収速度が皮膚状態の影響を受けにくくなっていて、生体内への薬物放出量を一定に保つことできるとされています。

 

 

用法・用量は?

本剤は気管支喘息、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫に使用することができます。通常、成人にはツロブテロールとして2mgを1日1回胸部、背部又は上腕部のいずれかに貼付して使用します。

 

ただし、小児の場合、用法は成人と同じとなりますが、年齢によって用量を変更する必要があり、下記のようになっています。

0.5歳~3歳未満                0.5mg/日

3歳~9歳未満                   1mg/日

9歳以上                             2mg/日

 

本剤は0.5mg剤、1mg剤、2mg剤の三規格が販売されており、用量が増えるにつれて、面積が大きくなります。使用の際は、上記の用量に合わせて1回1枚を貼付します。

 

本剤をハサミなどで切断して用量を調節することはしません。ツロブテロール自体はテープ剤に均一に含有されているので面積に比例した量になりますが、切断することで剥がれやすくなるといことと、切断して使用したという臨床試験のデータがないことから、品質が保証されません。

 

したがって、本剤は切断することなく、用量通りに使う必要があります。

 

         

 

予想される副作用は?

本剤は交感神経アドレナリンβ2受容体を刺激することで作用を発現するので、心悸亢進振戦の発現が予想されます。再審査終了時の使用成績調査の成人での結果では、心悸亢進(0.66%)、振戦(0.52%)が報告されました。

 

その他には、接触性皮膚炎(0.59%)、そう痒症・適用部位そう痒感(0.59%)、紅斑・適用部位紅斑(0.53%)でした。

 

一方、小児の結果は紅斑・適用部位紅斑(0.53%)接触性皮膚炎(0.47%)、そう痒症・適用部位そう痒感(0.35%)でした。小児においては、心悸亢進や振戦の報告が少ないのが意外でした。

 

 

その他の注意点

本剤は貼付に関連する皮膚炎等の副作用が報告されていますので、貼付部位の皮膚を拭って清潔にしてから本剤を貼付します。また皮膚刺激を避けるため、毎回貼付部位を変えることが望ましいとされています。

 

小児に使用する際、本剤をはがしてしまう可能性があるときは、手の届かない背中などに貼付します。

 

ジェネリック医薬品に変更する場合は注意!
ジェネリック医薬品の使用が推進されていますが、ホクナリンテープからジェネリック医薬品へ変更するときは注意が必要になります。変更後に喘息の症状が悪化したというケースが報告されています。

 

これは本剤とジェネリック医薬品が完全に一致するものではないということに原因があります。有効成分が同一で同じ量が含まれていても、血中濃度が一致するとは限りません。

 

例えば、以下のデータは標準品(本剤)とジェネリック医薬品を比較した血中濃度推移を示したデータになります。(添付文書より抜粋)3製剤ともホクナリンテープと同一とされている製剤ですが、下図のように血中濃度の推移に製品間で差が生じます。

 

 

 

 

 

先発品とジェネリック医薬品が同じものであるという基準は生物学的同等性によって判断されますが、その生物学的同等性を判断するためには、薬物の最大血中濃度(Cmax)血中濃度曲線下面積(AUC)という指標が使用されています。

 

CmaxとAUCが大差なければその薬剤は同一とみなされることになります。

 

したがって、血中濃度推移の違いが喘息発作の原因となり得ますので、ジェネリック医薬品へ変更した直後は喘息発作を起こさないか注意しなければなりません。

 


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