従来型(定型)抗精神病薬
ブチロフェノン系抗精神病薬
ハロペリドール (商品名:セレネース、リントン)
ブチロフェノン系第一世代の代表的な薬剤です。使用量がわずか1㎎程度でも効果を示すので高力価群と分けられることもあります。反対に前述のフェノチアジン系は高用量が必要となるので低力価群とされます。
本剤はフェノチアジン系薬剤と比較すると鎮静効果が弱く、抗幻覚作用が強いとされています。本剤の適応は、統合失調症における幻覚、妄想などの急性期陽性症状および維持療法に使用されるほか、急性の躁病やせん妄に対しても使用されることがあります。
本剤の注意すべき点として、EPSの発現頻度が高いというところがあります。副作用が発現すると治療へのアドヒアランスを低下させ、服薬をやめてしまうことも少なくありません。したがって、場合によっては薬剤性パーキンソン症候群に対する薬剤の投与が必要となることもあります。
統合失調症に対して、近年の第一選択薬は非定型抗精神病薬ですが、幻覚や妄想などの急性期陽性症状に対して本剤の有効性は依然として高いといえます。本剤は、経口剤のほかに注射剤もあるため、経口摂取ができない患者や拒薬傾向の強い患者に対しては有効です。
このように、本剤は抗幻覚作用は強く、現在でも有用性が高い反面、EPSの発現には十分に注意が必要な薬剤といえます。
ブロムペリドール (商品名:インプロメン)
本剤は、ハロペリドールと同等の抗幻覚作用があり、鎮静作用が少なく持続時間が長い薬剤です。統合失調症の幻覚や妄想に対して効果を有していますが、ハロペリドールと比較すると効果・副作用はマイルドです。
ハロペリドールと比較すると効果発現が早く、持続的であるので1日1回の服用で済みます。内服に抵抗感がある患者や服薬コンプライアンスが悪い患者に対しては治療効果が得やすいといえます。しかし、鎮静作用が弱いので高齢者に対しては使いやすいですが、興奮が強い患者に対しては、フェノチアジン系などの鎮静効果が強い抗精神病薬を併用することがあります。
EPSの発現頻度は低いとされていますが、高齢者にはふらつきなどが出ることがあるので注意が必要です。適正投与量を設定したり、副作用発現の指標としてブロムペリドールの血中濃度モニタリングを行う場合もあります。
ピモジド (商品名:オーラップ)
本剤はブチロフェノン系に類似しているブチルピペリジン誘導体で、強いドパミンD2受容体遮断作用を持っています。さらに血中半減期が50時間と作用時間が長く、抗精神病薬作用としては強くかつ長い作用をもつ薬剤といえます。しかしながら、本剤は重大な副作用や飲み合わせに問題があることが多いため、十分な注意が必要です。
本剤は低用量で統合失調症における陰性症状に対する改善効果を期待することができ、中~高用量では陽性症状の改善効果を期待することができます。
一方で、小児の自閉症に対する適応もあり、情動、意欲、対人関係等にみられる異常行動、睡眠、食事、排せつ、言語などにみられる病的症状の改善を期待することもできます。その他保険適用外にはなりますが、皮膚科領域では、皮膚の異常感覚を伴う寄生虫妄想や腎疾患・肝疾患に合併する皮膚のかゆみに対して低用量(2㎎/日以下)で用いられることもあります。
このように本剤は適応が多く、強い作用を持っていますが、服用が禁忌となる患者が多くあります。先天性QT延長患者に使用すると不整脈や心電図異常を起こすことがあると報告されており、禁忌となっています。その他、大量投与すると、治療中において原因不明の突然死が報告されており、投与量の調節には十分に注意が必要です。
また、本剤はCYP3A4という肝臓の代謝酵素によって代謝され性質があり、この代謝酵素を阻害する薬剤を併用すると、本剤の血中濃度が上昇してQT延長や心室性不整脈などの重篤な副作用引き起こす可能性があります。したがって、グレープフルーツジュースの併用や服用する機会の多い薬剤(クラリスロマイシン、フルボキサミン、パロキセチン、エスシタロプラム、アゾール系抗真菌薬など)の併用確認は決して怠ってはいけません。
ピモジドが禁忌の患者
- 先天性QT延長症候群の既往、家族歴、不整脈またはその既往歴がある患者
- QT延長を起こしやすい薬剤投与中の患者
- CYP3A4阻害薬(HIVプロテアーゼ阻害薬、アゾール系抗真菌、クラリスロマイシン、エリスロマイシン)、パロキセチン、フルボキサミン、エスシタロプラム投与中の患者
- 昏睡状態またはバルビツール酸誘導体、麻酔薬等の中枢神経抑制薬の強い影響下にある患者
- 内因性うつ病・パーキンソン病
- 本剤の成分に過敏症の既往歴のある患者
ベンズアミド系抗精神病薬
スルピリド (商品名:ドグマチール、ベタマック、ミラドール、アビリット)
本剤は少量投与で抗うつ効果を示し、大量投与で抗精神病効果を示すという投与量によって使用目的が異なる薬剤です。基本的に抗精神病効果については1日あたり300~600mg(2、3回で分服)が必要で、うつ病効果では1日あたり150~300mg(2、3回で分服)が必要となります。
本剤は統合失調症よりもうつ病患者に対して使用されることが多く、食欲不振や消化器症状のある軽症例に対して使用頻度が高い薬剤です。作用も比較的マイルドなので第一選択薬とはなることは少ないのですが、マイルドな分高齢者にも使いやすい薬剤です。また制吐作用があるので、SSRI服用によって起こる吐気を抑える目的で併用することもあります。
本剤はEPSは起こしにくく、比較的使いやすい薬剤ですが、脳内の漏斗下垂体経路に移行しやすいために高プロラクチン血症を起こしやすくなっています。特に若い女性では乳漏症、無月経、月経異常、肥満が出やすいために注意が必要です。また、高齢者では数か月に渡って連用すると、遅発性ジスキネジアを生じるために注意が必要です。
スルトプリド塩酸塩 (商品名:バルネチール)
本剤はスルピリドと類似した化学構造をもつ薬剤ですが、スルピリドと異なり強力な鎮静作用があるのが特徴です。
本剤は興奮の強い症例に適していて、躁病や統合失調症の興奮・易刺激性や幻覚・妄想状態に使用されています。特に躁病患者の急性期では、炭酸リチウムと併用すると速くかつ十分な鎮静効果を得ることができます。
主な副作用にはEPS、アカシジア、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下があります。重大な副作用として、悪性症候群遅発性ジスキネジア、麻痺性イレウス、けいれん、QT延長、心室頻脈があります。