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伝染性膿痂疹(とびひ)

とびひは皮膚に細菌が感染することによって起こる感染症です。皮膚に傷口があるとそこから細菌が侵入して水ぶくれ(水疱)やかさぶたを形成します。水疱をかきむしり、滲出液がついた手を介して、水疱が全身の皮膚のあっという間にいろいろな部位広がっていきます。このあっという間に広がっていく様子を火事の「飛び火」に見立ててとびひと称されています。

 

とびひは一度感染しても免疫ができず、何度も感染することがあります。特にアトピー性皮膚炎などで皮膚のバリア機能が低下しているととびひに感染しやすくなります。

 

とびひには水疱ができるもの(水疱性膿痂疹)とかさぶたができるもの(痂皮性膿痂疹)の2種類があります。原因菌としては黄色ブドウ球菌と化膿レンサ球菌が特定されています。

 

水疱性膿痂疹は、感染すると皮膚に水疱を形成して、だんだんと膿をもつようになり、それが破れると皮膚がただれていきます。かゆみがあるため、かきむしった手を介して感染性のある膿が体のほかの部分に触れるとそこに感染を引き起こしてしまいます。7歳未満の乳幼児がかかることが多く、汗をかきやすい夏に流行します。虫さされやあせもや擦り傷をひっかいて感染を起こすケースが多いようです。

 

とびひのほとんどは水疱性膿痂疹であり、黄色ブドウ球菌が原因です。黄色ブドウ球菌は健常人の鼻や皮膚の表面に存在する常在菌で、皮膚に傷口があるとそこから侵入してとびひを発症します。増殖時に産生される毒素がとびひの原因となります。

 

また、黄色ブドウ球菌はブドウ球菌熱傷様皮膚症候群(SSSS)を引き起こすことがあります。SSSSは黄色ブドウ球菌が産生する毒素が血流に乗って全身に回ることで起こり、高熱や体のだるさを発現し、皮膚が赤く腫れて痛みが出るようになります。SSSSは乳幼児に多くみられ、罹患した場合は入院管理が必要となります。

 

痂皮性膿痂疹は皮膚の一部に膿をもった水疱(膿疱)ができ、厚いかさぶたが形成されます。炎症が強く、リンパ節の腫れや発熱やのどの痛みを伴うことがあります。痂皮性膿痂疹は季節や年齢に関係なく罹患します。

 

痂皮性膿痂疹は主に化膿レンサ球菌が原因となりますが、黄色ブドウ球菌にも同時に感染している場合もあります。化膿レンサ球菌は、健常人の鼻やのどの常在菌です。黄色ブドウ球菌と同様に皮膚の傷口などから侵入することによりとびひを発症します。化膿レンサ球菌は溶連菌とも呼ばれており、まれに腎炎を引き起こすことがあります。そのため、十分な日数分の治療薬を服用する必要があります。

 

 

治療

とびひの原因は黄色ブドウ球菌と化膿性レンサ球菌であるため、これらに効果のある抗生剤を投与することになります。抗生剤には内服薬と外用薬がありますが、基本的な薬物治療の方針としては内服薬で治療を行うことが多いようです。外用薬を使用した場合、耐性菌ができやすいという報告もあるため、外用薬の使用は極力行わないという考え方もあります。

 

抗生剤の服用前に細菌培養などによりどの抗生剤が効くか確認するのが理想ですが、実際は最も多い原因菌である黄色ブドウ球菌を標的とした抗生剤投与を行います。抗生剤を数日間投与して症状が改善しない場合は薬剤を変更します。

 

ペニシリン系またはセフェム系どちらとも黄色ブドウ球菌にも化膿性レンサ球菌にも感受性はありますが、黄色ブドウ球菌にはセフェム系抗生剤、化膿性レンサ球菌にはペニシリン系抗生剤を投与することが多いようです。しかし、最近は細菌の耐性化が進んでおり、およそ3割が抗生剤の効かないMRSAであったとの報告もあります。そのためMRSAにも効果がある抗生剤投与を考慮しておかなくてはなりません。MRSA対策として、ホスホマイシン、ミノマイシン、ニューキノロン系抗菌薬が使用されることがあります。

 

とびひが枯れてしまって、すぐに抗生剤の服用を中止してしまうと再発を起こすことが多くあります。そのため、医師に指示された日数分はきちんと服用しなければなりません。

 

外用抗生剤の場合、フシジン酸ナトリウムやナジフロキサシンが効果的です。しかし耐性菌を作ることがあるため、難治性や重症例以外では使用しないことがあります。

 

黄色ブドウ球菌の場合
処方例1)セフゾンカプセル(100mg) 3Cap 分3
処方例2)クラビット錠(500mg) 1錠 分1
処方例3)小児において
セフゾン細粒小児用(100mg/g) 9~18mg/kg 分3

 

化膿性レンサ球菌の場合
処方例1)サワシリンカプセル(250mg) 3Cap 分3
処方例2)小児において
ユナシン細粒小児用(100mg/g) 15~30mg/kg 分3

 

また、抗生剤以外にもかゆみを減らすために抗アレルギー薬を使用することがあります。かゆみを減らすとかきむしることが少なくなるため、感染の拡大を防ぐことができます。

 

外来処置で炎症を抑え患部を保護する目的で亜鉛化軟膏が使用されることがあります。亜鉛化軟膏を塗布したあと、ガーゼを当てて患部に触れなくすると、夜間に無意識にかきむしってしまうということを防ぐことができます。一方、ステロイド剤単独ではとびひに効果はなく、かえって細菌を増加させることもあるため使用してはいけません。

 

 

予防

とびひは、患部を触った手を介して全身にひろがっていきます。そのため、患部には触れないようにするのが基本です。しかし、とびひはかゆみを伴うため、気をつけていても無意識のうちにかいてしまっています。引っかかないように爪は短く切って、ヤスリで丸めておく必要があるでしょう。

 

また入浴して皮膚を清潔に保つことが重要です。浴槽に入るよりもシャワーを使用して、石鹸で患部を含む全身をやさしく手で洗います。シャワーから出た後はタオルなどで患部を擦らないようにして拭き、一度使ったタオルは洗濯するようにします。タオルを使い回すことで他の人へ感染することもあります。衣類やシーツも治癒するまでは毎日洗濯する必要があるでしょう。

 

とびひにかかったときのプールはなるべく避けてた方が良いと考えられます。プール水を介した感染は少ないとは思いますが、皮膚が接触することもあり、そこから感染する可能性が考えられます。とびひが治癒した後に入るべきと思いますので、その辺の判断は医師に仰ぐのが適当かと考えます。


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