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クループ症候群

クループ症候群は咽頭に炎症が起こることによって、呼吸がしにくくなり、重症になると呼吸困難を呈する急性疾患です。症状は声嗄れ、犬の吠えるような咳、喘鳴などがあります。クループ症候群における咳症状は特徴的で、アザラシやアシカの鳴き声に例えられることがあります。

 

初期は発熱や喉の痛みといった風邪のような症状から始まり、次第に声がかすれて犬の遠吠えのような咳をするようになります。重症になると呼吸困難となり、気管支拡張薬の吸入や酸素投与が必要となる場合もあります。昼間は症状が軽くても、夜間に症状が悪化することが多いため、適切な受診の判断と迅速な対応が必要となります。

 

原因はウイルス性のものと細菌性のものがあります。ほとんどがウイルス性であることが多く、パラインフルエンザウイルスアデノウイルスなどが原因となることが多いです。6ヶ月~3歳の小児に好発します。

 

細菌性は、ジフテリア菌インフルエンザ菌b型(Hib)の感染によるものが多いです。Hibに感染すると、急性咽頭蓋炎を起こすことが多いです。急性咽頭蓋炎になると、咽頭蓋の部分が急激に腫れて気道をふさいでしまうため、窒息死意識障害を起こす場合があります。

 

現在日本では三種混合ワクチンの普及しており、ジフテリア菌の感染予防が可能となっていますので、クループの原因菌となることは少なくなっています。

 

Hibもワクチンによる予防が可能となっています。2008年12月から日本では任意接種できるようになっており、ワクチンの接種が推奨されます。

 

 

Hibワクチンについて

Hibは細菌性クループ症候群の原因菌で、感染すると急性咽頭蓋炎を起こします。このほかにもHibが原因で起こる重篤な感染症に、細菌性髄膜炎があります。細菌性髄膜炎の原因菌の約6割をHibが占めています。したがって、すべての乳児はHibワクチンを接種するべきと考えられます。

 

Hibはインフルエンザと名称が付いてはいますが、冬季に流行するインフルエンザウイルスとは異なります。Hibは過去にインフルエンザが大流行したときに原因菌とされましたが、その後に否定されたため、インフルエンザの名称だけが残ることになりました。

 

Hibは上気道に常在しており、肺炎や気管支炎の原因となります。インフルエンザ菌は抗原型によりa~fの6つの型に分けられますが、最も病原性の強いものはb型です。

 

Hibワクチンは欧米では1980年代から使用されており、日本では2008年から任意接種とされるようになりました。Hibワクチンの接種目的は、Hibによる髄膜炎の予防を目的として接種されますが、クループ症候群でもある急性咽頭蓋炎の予防も可能です。

 

細菌性髄膜炎の発症年齢のピークは生後6ヶ月~1歳までと言われているため、6ヶ月までに規定の回数を接種することが推奨されています。接種スケジュールとして、接種対象年齢は2ヶ月以上~5歳未満で、接種方法は接種年齢によって異なります。

 

生後2~7ヶ月までに接種開始する場合

4~8週間間隔で3回接種し、3回目の接種から1年後に1回の合計4回接種します。

 

生後7ヶ月~1歳未満までに接種開始する場合

4~8週間間隔で2回接種し、2回目の接種から1年後に1回の合計3回接種します。

 

1歳~5歳未満までに接種開始する場合

1回接種のみで追加接種はしません。

 

Hibワクチン以外のワクチンを接種する場合は、Hibワクチン接種後6日間以上の間隔をあければ接種可能です。最近は接種するワクチンの種類が増えていて、同時接種の安全性が問題になることもありました。しかし、欧米では同時接種は一般的に行われており、日本小児科学会においても、同時接種は病気の予防のために必要な医療行為と述べています。

 

 

治療

治療の方針として、①酸素吸入、②アドレナリン吸入、③ステロイド薬の投与、④抗生物質の投与があります。重症例では直ちに入院が必要で、呼吸状態や意識状態などをモニタリングしながら治療を行います。

 

① 酸素吸入

酸素飽和度(SpO2)をモニタリングし、低下していれば酸素投与を行います。症例数は少ないですが、気管内挿管が必要となる場合もあります。 

 

② アドレナリン吸入

気管支拡張作用血管収縮作用があり、吸入することで気管支を拡げて、のどの腫れを抑えます。効果の発現が早いですが、効果の持続時間が短いため、効果がなくなると呼吸困難が再発することがあります。

 

処方例) ボスミン外用液0.1%® 1回0.2mL (学童の場合)

              生理食塩液2mLと混ぜてネブライザーで吸入する

 

③ ステロイド薬の投与

ステロイドの抗炎症作用によって、のどの腫れを抑える目的で投与を行います。デキサメタゾンを使用することが多く、剤型に注射と経口薬があります。外来の場合は経口薬を使用することが多いです。またステロイド剤のため、リバウンド現象に注意する必要があります。

 

処方例1)デカドロン注® 1回0.6mL/kg (最高10mg)静注

 

処方例2)デカドロンエリキシル0.01%® 1回 0.15mg/kg 1日2回 服用

 

リバウンド現象

 薬剤を自己判断等で勝手に服用を中止すると、抑えられていた症状が反動で悪化する現象をいいます。高血圧治療薬や血液凝固阻止薬やステロイド剤などの医薬品で起こしやすく、ステロイド剤の場合は、発熱、頭痛、食欲不振、脱力感、筋肉・関節痛、ショック等の症状が現われることがあります。

 

④ 抗生剤の投与

原因のほとんどがウイルス性であり、この場合は抗生剤の投与を行いませんが、二次感染が疑われる場合は抗生剤の投与を行う場合があります。推奨されている抗生剤はありませんが、急性咽頭蓋炎はほとんどがHibによるものであること、患者の重症度、Hibの耐性化を考慮して抗生剤を選択します。セフォタキシムメロペンが使用されることが多くあります。

 

処方例1)セフォタックス注® 1回30mg/kg 1日3回 静注

 

処方例2)メロペン注® 1回20mg/kg 1日3回 静注

 


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