脱水症
嘔吐や下痢の時に我々の体は水分を供給失ってしまいます。
水分の他にも胃液や腸液などの消化液を失いますが、消化液は水分とナトリウムやカリウムなどの電解質で構成されており、水分だけでなく、電解質も失ってしまっています。脱水症とは、水分のみを失うのではなく、電解質も失ってしまった状態をいいます。
乳幼児の場合、体の水分量が70~80%と、成人に比べて水分量が多いことと水分量を調節する能力が未発達のために脱水症状を起こしやすいです。
また、ウイルスや細菌に対する防御機能も十分ではないため、感染症にかかりやすく下痢や嘔吐を起こしやすいため脱水症には気をつける必要があります。
脱水症には下記のような症状があり、症状が良くならなかったり、悪化するときは早めの受診が必要です。
・食欲がない
・泣いても涙が出ない
・機嫌が悪い
・皮膚、口、舌が乾燥している
・顔色が悪い
・うとうとしている
・目がおちくぼんでいる
・尿量が減るまたは尿の色が濃くなる
経口補水液(ORS:Oral Rehydration Solution)
脱水症を防ぐためには、水分補給が必要となりますが、単に水分だけを飲ませると、塩分欠乏型の脱水症のためにぐったりして手足が冷たくなってしまいます。
水分やナトリウムやカリウムを素早く腸管から吸収させるためには、これらの電解質と一定の比率のブドウ糖が必要です。このとき、水分とともにナトリウムやカリウムを吸収しやすいように組成された飲料を経口補水液(ORS)といいます。
ORSには医療保険内で使用されるソリタT顆粒や市販用でOS-1やアクアライトなどがあります。OS-1やアクアライトは個別評価型病者用食品と呼ばれており、ドラッグストアや薬局などで購入することができます。OS-1はスポーツ飲料を薄めて塩味を濃くしたような味がします。
個別評価型病者用食品
特別用途食品のうちで特定の疾病のための食事療法上の期待できる効果の根拠が医学的、栄養学的に明らかにされている食品として厚生労働省が許可した食品。(OS-1のパンフレットより抜粋)
嘔吐や下痢による脱水症の防止にORSの代わりにスポーツ飲料やアイソトニック飲料を飲ませることがあります。この場合、スポーツドリンクは糖分が多く、ナトリウムやカリウムなどの電解質の量は不足しています。
したがって、スポーツドリンク等では電解質の補給が十分に行うことができないため、脱水症の防止にはORSが適しています。もし、スポーツ飲料を使用する場合には、塩分を追加する必要があります。
糖分を一緒に摂らなければならない理由
電解質であるナトリウムは血液中ではナトリウムイオンとなって存在しています。ナトリウムイオンは小腸から吸収されますが、ナトリウムイオンが小腸の中で無造作に吸収されて行くわけではなく、腸管細胞のある輸送体を侵入経路として細胞内に吸収されています。
この輸送体をSGLT1トランスポーターといっていて、蛋白質で構成されています。SGLT1はブドウ糖つまり糖分が存在しないと機能することができないため、ナトリウムイオンの細胞内に摂取するためには同時に糖分が必要となります。これが塩分と糖分を同時にとらなくてはならない理由です。
SGLTトランスポーターを介してナトリウムイオンとブドウ糖が腸管細胞内に取り込まれると、次は血管側へ移動します。
腸管細胞から血管側へ移動する際に、ブドウ糖はGLUT2というトランスポーターを介して移動し、ナトリウイオンはNa+/K+ポンプという蛋白質を介して移動します。ナトリウムイオンとブドウ糖の移動に伴って、移動元の腸管内と血管内との間に浸透圧の差が発生します。
これを水分で薄めようとしますので、水分は血管内へ移動することになります。これが水分が素早く吸収される理由となります。
水分が効率的に吸収されるためには体液の浸透圧が適切な濃度である必要があり、体液の浸透圧が約280mOs/Lに対して、少し低めの浸透圧が良いとされています。ORSの浸透圧は約270mOs/Lで、吸収されやすい濃度に調整されています。塩分が濃すぎて浸透圧が高くなりすぎると、水分が血管側から腸管内へと移動するため、下痢を起こしてしまいますのでむやみに塩分や糖分を摂取すればいいという訳ではありません。
ORSの飲ませ方
嘔吐している時には、胃は激しく動いています。そこにORSなどを無理矢理飲ませても、吐いてしまいます。スポイトやティースプーンなどを使って、少量ずつ頻繁に根気強く飲ませます。
嘔吐が止まったら、ORSを欲しがるだけ自由に飲ませます。失った量だけ飲ませることができれば、点滴注射をしなくて済みます。ORSを飲ませて尿量が増えてきたり、尿の色が薄くなってくれば脱水症状が改善してきたとみることができます。
1日あたりの目安量は幼児で300~600mL/日程度、学童で500~1000mL程度です。あくまで目安量ですので、量はさほど気せず、欲しがるだけ与えるようにして下さい。