非定型抗精神病薬
多元受容体作用抗精神病薬(MARTA: multi-acting receptor-targeted antipsychotic)
MARTAはドパミンD2受容体、セロトニン受容体5-HT2A受容体以外にα1受容体、α2受容体、ヒスタミンH1受容体、ムスカリンM1受容体などを遮断することで、抗精神病作用に加えて陰性症状や認知機能改善効果を持っています。MARTAは気分安定化作用、抗うつ作用があり、統合失調症のだけでなく、双極性障害や治療抵抗性うつ病などにも使用されます。
クロザピン(商品名:クロザリル)
本剤は、統合失調症の陽性症状、陰性症状、認知機能障害を改善する作用がする非常に強い作用をもっており、統合失調症の薬剤治療における最後の切り札という位置にあります。ただし、多数の重篤な副作用を起こす可能性が高いことから、限られた条件の患者に対して厳しい管理下でのみでしか処方されることはありません。現在ではCPMS(clozaril patient monitaring servise)の講習を受け、登録した専門医・薬剤師に使用が限られています。
本剤の適応は、治療抵抗性統合失調症の患者となっています。治療抵抗性統合失調症とは、反応不良性の統合失調症と耐容性不良性の統合失調症の2つから構成されていて、前者は数種類の抗精神病薬を十分な量、十分な期間投与したにもかかわらず、十分な効果が得られれないものを指し、後者は副作用により十分量の抗精神病薬を投与できないものを指します。反応性不良統合失調症と耐容性統合失調症の基準を以下に記述します。
【反応性不良の基準】
・2種類以上の十分量の抗精神病薬を十分な期間(4週間以上、定型抗精神病薬については1年以上)投与しても反応がみられなかった患者
・治療反応はGAF(Grobal Assesment of Functioning)で評価する。
【耐容性不良の基準】
・非定型抗精神病薬のうち、2種類以上による単剤治療を試みたが、遅発性錐体外路症状等により十分に増量できず、十分な治療効果が得られなかった患者
・EPSはDIEPSS(Drug Induced Extrapyramidal Symptomd Scale)で評価する。
本剤における重篤な副作用に以下のようなものがあります。
好中球減少症、無顆粒球症、心筋炎、心筋症、高血糖、糖尿病性昏睡
一方、本剤はドパミンD2受容体に対する親和性は低いため、EPSや高プロラクチン血症は少ないと考えれています。
1975年に無顆粒症で16例中8例が死亡したとの報告がありました。無顆粒球症が生じると顆粒球の異常な減少により重篤な細菌感染症をきたします。そのため投与前に以下の条件に当てはまる場合は本剤の投与は禁忌となっています。さらに投与中は定期的に白血球数、好中球数を測定し、無顆粒球症の起こりやすい18週間以内は入院治療となります。
クロザピンの投与前における投与禁忌の条件
・白血球数<4,000/mm3または好中球数<2,000/mm3
・決められた頻度の血液検査を拒否する。
・好中球減少症の既往がある。
・白血球減少により以前クロザピンを中止したことがある。
・骨髄機能障害がある。
・骨髄抑制を起こす可能性のある治療中(放射線療法、化学療法)
高血糖症状の兆候として、口渇、多飲、多尿、頻尿などの症状の発現には気を付ける必要があり、定期的な血糖値およびHbA1cの測定が重要です。本剤は糖尿病ケトアシドーシス等のリスクがありますが、糖尿病患者への投与は禁忌となっていません。
心筋炎、心筋症は発症すると重篤になりやすく、死亡することもあります。そのため、本剤の投与初期、増量時には頻脈、動悸、不整脈、胸痛、原因不明の疲労、呼吸困難などの症状の発現には注意が必要となります。
オランザピン(商品名:ジプレキサ)
本剤はクエチアピンとともに統合失調症の薬物治療のメインとなる薬剤であり、クロザピンをもとに無顆粒球症を生じない類似化合物として開発された薬剤です。適応は統合失調症だけにとどまらず、双極性障害(躁状態、うつ状態)や治療抵抗性統合失調症にも効果があり、幅広い疾患に対して効果を示す薬剤です。
本剤は強い鎮静効果をもっているため、興奮や感情症状が強い患者に対しては特に適性があると言えます。様々な疾患に対して使いやすい薬剤である一方で、代謝障害(高血糖症状や低血糖症状)や体重増加も起こしやすいため注意が必要です。糖尿病・糖尿病既往歴のある患者に対しては禁忌となっています。
高血糖症状の兆候である口渇、多飲、多尿、頻尿等などの症状の発現には十分に注意が必要です。やたらとのどが渇いて水を多く飲むようになったり、尿の回数や量が増えたりすると服用の中止を服用を中止しなければならない場合があります。
また低血糖症状の兆候である脱力感、倦怠感、冷汗、振戦、傾眠、意識障害等などの症状の発現にも注意が必要であるほか、体重増加の際には食事制限や運動療法が必要となる場合もあります。
クエチアピンフマル酸塩(商品名:セロクエル)
本剤は他の非定型抗精神病薬と比較するとドパミンD2受容体への親和性が低く、EPSが出にくい薬剤です。オランザピンと同様にドパミンD2受容体以外にセロトニン5-HT2A受容体、α1受容体、α2受容体、ヒスタミンH1受容体など多くの受容体に遮断作用があり、セロトニン5-HT1A受容体には部分作動薬として作用します。
本剤は統合失調症以外に双極性うつ病にも強い効果をもつことから、抑うつや引きこもり傾向の目立つケースはよい適応となります。またドパミンD2受容体に対する親和性が低いためにEPSの副作用リスクが少ないことから、EPSやEPSの副作用が出やすい患者に使用しやすいと考えれています。
一方、オランザピンと同様に体重増加や食欲亢進をきたしやすいため、その発現の有無を確認する必要があります。糖尿病・糖尿病既往歴のある患者に対しては禁忌となっています。
ドパミン受容体部分作動薬(DPA: dopamine partial agonist)
DPAはドパミンD2受容体の遮断作用を示しますが、単に遮断作用するだけでなく脳内のドパミン濃度に応じて、作動薬としても作用を示す薬剤です。つまり、DPAはシナプス間におけるドパミンが多い場合は、受容体を遮断薬として作用し、反対にシナプス間のドパミンが少ない場合は作動薬として作用することで、脳内ドパミン濃度のバランスを調整することができます。そうすることによって、黒質線条体系を過度に抑制しないためにEPSは出現しにくくなります。
アリピプラゾール(商品名:エビリファイ)
本剤は、ドパミンD2受容体の部分作動薬として作用することで脳内のドパミン系全体を安定させる薬剤です。つまり、ドパミン濃度が高ければ遮断薬として作用し、ドパミン濃度が低ければ作動薬として作用します。
本剤は統合失調症の陽性症状、陰性症状、認知機能をともに改善すると考えられます。統合失調症以外に双極性障害における躁症状、治療抵抗性うつ病・うつ状態に対しても使用することができます。
本剤はDPAとして作用するために他の薬剤よりもEPS、高プロラクチン血症、過鎮静を生じにくいとされています。高用量を用いることで適度な鎮静が得られるといわれていますが、興奮の強いケースでは鎮静作用が不十分なケースもあります。副作用として、高血糖、体重増加、アカシジアなどが報告されています。特に投与初期に不眠、焦燥、アカシジア、胃腸障害などが起きやすいために注意が必要です。
また、本剤は錠剤以外に内用液の剤型もあります。内用液は水なしでも服用できることや作用発現が早いなどの利点があります。エビリファイ内用液を服用する際は、そのまま服用するか白湯やジュースで約150mLに薄めて服用します。お茶やみそ汁、煮沸前の水道水に混ぜてはいけないことになっています。
通常、ジュースに混ぜて服用していけないという薬剤は多々ありますが、エビリファイ内用液についてはその逆になっています。理由は、水道水に含まれる塩素の影響によって含量が低下するためで、混合する場合は煮沸して塩素を取り除く必要があります。また、お茶やみそ汁と本剤を混ぜることで混濁・沈殿を生じて、含量が低下するため、これらにも混合してはいけないことになっています。