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レビー小体型認知症の病態と薬物療法

アルツハイマー型認知症(AD)の治療薬として使用されているドネぺジル塩酸塩(商品名:アリセプト)は、2014年9月にレビー小体型認知症(DLB)に関する効能・効果の追加承認が得られました。

 

認知症とは?

認知機能が後天的な脳の障害によって日常生活や社会生活に支障をきたす疾患です。主に記憶障害が生活に支障をきたしていきます。

 

有病率は3%、65歳以上では462万人もいると推定されています。軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)も400万人あり、65歳以上の4人に1人は認知症もしくはMCIと推定されています。

 

患者が増えた背景として生活スタイルの変化が挙げられています。現在は昔に比べると字を書かなくなったり、運動をしなくなったことなどが認知症の増加の原因につながっているのではないかとの意見もあります。

 

 

物忘れとアルツハイマー型認知症の違い

物忘れは、体験もしくは行動の一部を忘れてしまいます。それに対してADはその体験もしくは行動したこと自体をすっかり忘れてしまい自覚しておらず、進行性の疾患です。ADは初診までに平均で9ヶ月半かかるとも言われており、早期診断が重要にもかかわらず、診断が遅くなっている傾向にあります。

 

男性はADのエピソードが発見しにくいですが、女性は家事の変化などでADが発覚することが多くあります。例えば、料理の味付けが極端に濃くなったり薄くなったりとか、お金の管理ができなくなったなどのエピソードをきっかけに受診することがあります。

 

 

認知症の病型による割合

認知症の病型の中でADが最も多く50%で、DLBが20%、脳血管性が15%、その他が15%という割合になっています。そのほかピック病やハンチントン病などがあり、これらは全て進行性であることは共通していて、現在のところ治療法はその進行を遅らせることしかできません。

 

睡眠薬、抗てんかん薬、抗うつ薬などを服用中であると、認知症と誤診しやすいことが多くありますので注意が必要です。

 

脳血管性認知症が他の病型と違う点は、予防することが可能であるという点です。以前は脳血管性認知症が最も多いと考えられていましたが、脳血管性の中にADが隠れていたことが明らかになっており、現在ではADが最も多くを占めるようになりました。

 

ADでは海馬が萎縮することによって、記憶障害が起こります。それに対して、認知症ではありませんが、パーキンソン病では、中脳黒質-線条体のドパミン神経変性が起こることにより、運動機能障害が起こるとされています。

 

 

DLBについて

DLBはADに次いで多い進行性認知症であり、男性に多いとされています。主な症状には幻視、パーキンソンニズム(PD)、認知機能や意欲の変動があります。これらの発現は個人差が大きく、人によっては症状が出ない場合もあります。

 

DLBとパーキンソン病(PDD)はともにαシヌクレインが蓄積するという病態は共通しています。DLBとPDDは両方とも大脳皮質にレビー小体という封入体が多く認められます。DLBとPDDの鑑別に1年ルールがあり、PDが出て1年以内に認知症を発症したものは、DLBと診断しますが、PD症状が出て1年以上で認知症を発症したものはPDDと診断されます。

 

 

DLBの臨床症状

必ずすべての症状が出現するとは限らないため、診断が困難なケースが多くあります。

 

中心的症状(必須症状)

認知機能障害(進行性)
ADに比べるとあまり目立たないのが特徴的です。初期から注意障害(ぼーっとしている)、遂行機能障害(家事ができなくなる、薬を飲み忘れる、服を着れなくなるなど)、視空間認知障害(物が歪んでみえる、部屋のドアが分からなくなる)の症状があります。

 

中核的症状

幻視
はっきり見えていて、具体的には虫や小動物が多く見えることが多くあります。見えたものがある程度理解し、把握できています。後頭葉の血流が低下していることが原因の一つとも考えられています。

 

高齢者で幻視があればDLBであると考えられます。幻視がある他の疾患に統合失調症がありますが、高齢者では統合失調症である可能性は低いとされています。

 

パーキンソニズム(PD)
動作緩慢、筋固縮、小刻み歩行、安静時における手足の震えなどの症状があります。ホーン・ヤール分類でstage3以上が難病指定を受けます。認知症における転倒リスクは、運動障害からの転倒が多いとされており、DLBではその危険性が高くなります。

 

認知機能の変動
認知機能の変動が激しく、数日~数週間単位で変化することもあります。はっきりしているとボーっとしているときや良いときと悪いときの差が激しくなります。意識障害やせん妄と間違われるケースもあります。

 

DLBは認知機能が変動しますが、ADは認知機能が改善することはほとんどなく、時間が経過するにつれて機能が低下していきます。

 

示唆的特徴

レム睡眠行動異常症
睡眠中に大声で叫んだり、手足をバタバタさせたりするなどの症状がみられます。

 

抗精神病薬に対する過敏性
抗精神病薬、抗うつ薬、抗コリン薬などに過敏に反応して副作用を発現しやすくなります。具体的症状として、これらの薬剤を使い始めると突然動かなくなったりすることがあります。

 

自律神経症状
起立性低血圧がみられることがあり、血圧変動が大きくなり、日内変動が20mmHg以上になることもあります。

 

うつ症状
初期に現れやすいとされています。うつ病との鑑別が難しいとされています。数年前からうつ症状が出ることもあり、DLBの約70%に出現すると考えられています。

 

妄想
嫉妬妄型が多いとされています。

 

カプグラ症候群
人物誤認。

 

その他
嗅覚異常など

 

プレクリニカルな症状として、便秘、嗅覚障害、うつ症状、レム睡眠行動異常症が認められることがあります。DLBはADよりも進行が早く、生命予後も悪い疾患です。PDは、DLBにおいては中核的特徴としてありますが、ADにおいては末期にならないと発現しないという違いがあります。

 

 

DLBの検査

MMSE⇒30点満点で23/30以下
NPI⇒精神系の症状診断スケール
CDI⇒時計描写テスト、患者に時計の10時10分を描いてもらうテスト。

 

MRI⇒少し萎縮が認められるものの、異常は特にありません。
脳血流シンチ検査⇒補助的診断の意味合いが強く、10人中2,3人程度に陽性が出ます。
心筋シンチ(MIBG)⇒90%くらいに陽性が出るとされています。脳ドパミンシンチは保険適用があります。

 

 

DLBの薬物療法

DLBの既治療について、これまでの使用実績や適応外使用されたものを含むものから考えると大きく2つに分けられます。薬理作用の違いによってコリンエステラーゼ阻害薬NMDA阻害薬に分けられます。

コリンエステラーゼ阻害薬→アリセプト、リバスチグミン、ガランタミン
NMDA阻害薬→メマリー

 

DLB患者では、薬剤過敏性もあり、幻視に効くためにアリセプト1~3mgの低用量が最も適しているのではないかとの意見があります。

 

DLB治療に対する基本的な考え方

アリセプト 3mg/日 1~2週間

アリセプト 5mg/日 4週間以上

アリセプト 10mg/日を忍容性、副作用、PDの発現を確認しながら継続する。
    ・幻視が出たら→抑肝散を追加。それでも改善しない場合は非定型向精神病薬を追加もしくは変更。
    ・PDが出たら→レボドパ製剤を追加。
    ・副作用が出たら→アリセプト 5mg/日まで減量可。

 

アリセプトの有効性

大脳皮質へ投射しているマイネルト基底核において、DLBではADよりもアセチルコリン活性が低下していると考えられています。そのため、アリセプトは認知機能障害への効果が期待できると考えられています。

 

また、アリセプトはADでは効果が3カ月ピークでその後は効果が落ちていくのに対して、DLBでは長期に渡って認知機能が維持できるとされています。

 

 

幻視や妄想に対する薬物治療

アリセプトがファーストチョイスとなります。抑肝散、抑肝散半夏陳皮も使用されることがあります。クエチアピン、アリピプラゾールが使用されることもありますが、糖尿病患者では禁忌となっています。リスペリドン、オランザピンなどが使用されることもあります。

 

うつ症状に対する薬物治療

SSRIの有効性は低いと考えられています。スルピリドはPDを悪化させるために注意が必要です。

 

PDに対する薬物治療

レボドパ製剤を使用します。幻視が出やすいため、抗コリン薬は避けます。

 

便秘に対する薬物治療

緩下剤、モサプリド、ドンペリドンなどが使用されますが、メトクロプラミドはPDを悪化させるために注意が必要です。

 

頻尿に対する薬物治療

過活動膀胱治療薬として比較的新しく発売されたトビエースは、抗コリン作用が少なく使いやすい印象があります。

 

起立性低血圧に対する薬物治療

ドロキシドパ、ミドトリンなどを使用します。低血圧を防ぐため、血圧降下剤を併用していないか注意しなければなりません。

 

レム睡眠行動異常症に対する薬物治療

クロナゼパム(ランドセン、リボトリール)が使用されることがあります。

 

睡眠障害に対する薬物治療

非ベンゾジアゼピン系(エスゾピクロン、ラメルテオン)を使用します。DLBの患者は昼夜逆転型が多くあります。

 

 

薬剤治療の原則

①    服薬数を少なくする合剤の利用
②    服用法の簡便化する→なるべく1日1回にする
③    介護者が管理しやすい服用法にする
④    服用しやすい剤形にするD錠ゼリー剤の利用
⑤    一包化処方にする
⑥    服薬カレンダーを利用する

 

その他、介護サービスを利用して介護者の負担を少しでも減らすようにします。申請までに2~3ヶ月かかるため注意が必要です。また、適度な運動を転倒に気をつけながら、実施するようにします。介護サービスのリハビリや在宅リハビリを利用するのもひとつの手です。

 


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